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「800字文学館」

ウォーキングと欅

稲宮 健一

 我がウォーキングは舞岡公園と、それに続く住宅街を通って歩いている。平均で週三回、約五㎞、四二分である。歩きながら、季節の移ろいが感じられる。公園には野鳥が飛び交い、バードウォッチング愛好家も多い。夏の始めまで鶯が鳴いていた。ひと頃多かったカラスはめっきり減った。初夏に日が暮れると、公園の中を流れる小川沿いに蛍が飛んでくる。都会では珍しい。

 公園の少し落ち込んだ所には、専業農家と市民農園の田圃が混在している。夏も近付く八十八夜、市民農園はその頃、専業農家は六月の終わりのちょっと遅い田植えが始まる。今は黄金色に実り、稲刈りが始まっている。もうじき、谷戸の収穫祭があり、子供達が公園産のお餅を楽しみにしているだろう。秋祭りの気分を出すため、田圃に趣向を凝らしたデモ用の案山子が飾ってある。田圃を過ぎると、細い道の両脇は木々が茂って、それを通り過ぎると出口になり、そこが戸塚からのバスの終点になっている。折り返し点にロータリがあり、その真ん中に欅が一本突っ立っている。

 欅の葉は季節に敏感だ。今は一部が褐色で黄葉の始まりだ。ここを通る度に、葉の色づき、茂り方が季節を語りかける。年間を通じると、春と共に若い青葉が裸の枝に芽吹き、盛夏に汗をかきながら通ったころは、一番濃い緑が天井を覆って茂り、そして黄葉し、枯葉が落ちる。長袖、長ズボンで通るこころは、すっかり冬の空が透けて見える枝だけの欅になっている。

 中間点のロータリを過ぎると中学校がある。放課後、沢山の生徒がテニスや、サッカー、ランニングに興じている。若いな。ゆくゆくは金メダルか、体力、知力でノーベル賞が出るといいね。中学校を過ぎると、住宅街。ここは高度成長期に住み始められたので、年配者が目立ち、ポツポツと空家がある。元の敷地に二軒建てる新築が多い。そうこうしているうち、我が家にたどり着いた。年が明け、春になるとまた、目に染みるような新緑が歩きながら楽しめる。

(二〇一四・一〇・二三)

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