縄文文明
日本では、農耕と鉄器と文字が大陸からもたらされた弥生時代から文明が始まった、との説が長く有力でした。しかし、遺跡の発掘が相次ぎ、さらに放射性炭素による年代測定などの科学技術の発達により縄文時代の実像が次第に明らかになってきました。文字は持たなかったとはいえ、四大文明と比較してもそん色のない、あるいは、それを上回るほどの文明があったと推測されます。
土器の発明により、人類の食生活は大きく変化しました。獣肉や魚介類などの生ものが中心だったのが、煮炊きができるようになって沢山の植物を食料とすることに成功しました。安全に、しかも安定的に食料が確保でき、定住生活も始まりました。この土器の発明は世界の三地域のみにおいて起こったとみられていますが、西アジアの最古の土器は九千年前、米大陸では七千年前です。ところが青森県からは一万六千五百年前の土器が出土しています。
古いばかりか、芸術性に富むのが縄文土器のもう一つの重要な特徴です。時代はずっと下がりますが、五千年前ほどの火炎土器の質の高さは同時代の土器としては、群を抜いています。しかも、実用だけではなく、祭祀用など他の用途があったと推定されています。生きるために直接的に必要としない道具に、長い時間と情熱をかけて制作に当たるほどの高い精神文化を築いていました。
Japanは日本ですが、japanは漆です。漆も支那からの伝来文明と思われがちですが、海外では漆の本場は日本と見なしていました。北海道の垣ノ島遺跡から発掘された漆器は、近年の研究で世界最古の九千年前と判明しました。漆は腐敗防止や防虫などの実用効果があります。と同時に見た目も非常に美しくなります。此処でも早くから芸術性が追求されています。
自然と共生し、森を守る文化を作り上げた縄文の暮らしが、現代の日本人の価値観に、なお強い影響を及ぼしていることも明らかになってきています。縄文文明を見直すことにいたしましょう。
平成二十六年十一月十三日