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「800字文学館」

二人の男の子

馬場 真寿美

 翠さんと萌さんは、とても仲の良い姉妹です。といっても、二人は性格も生き方も全くの正反対。卒業後すぐに結婚した姉の翠さんには、優しいだんな様と、もうすぐ二歳になる優太くんという可愛い男の子がいます。一方の萌さんはというと、大企業に就職を決めると、キャリアウーマンとしてバリバリと活躍していました。
 さて、自由でリッチな独身生活を謳歌していた萌さんでしたが、近頃ではお姉さんのことが羨ましくてなりません。だって、お姉さんは、お姉さんだけの優太くんという宝物を持っているんですもの。
 そこで、ある日、萌さんは会社帰りにペットショップに立ち寄ると、一匹の小さな子犬を手に入れました。ふわふわとしていて、まるで毛玉のようです。子犬はオスだったので、名前はひと晩考えに考えて、『風太』と名づけることにしました。
 ある日曜日、麗らかな陽気に誘われるように、二人はそれぞれ優太くんと風太を連れて、近くの公園へ散歩に出かけることにしました。
 季節は春真っ盛り。桜の花が満開です。
 桜の花に見とれながら歩いていると、向こうから、ドヤドヤと賑やかなおばさんたちの集団がやってきました。そして、翠さんたちに目を留めるや、
「まあ、可愛い!」
 黄色い歓声を上げながら、ドドドッと駆け寄ってきました。驚いた優太くんは、慌てて翠さんの後ろに隠れます。風太も警戒して耳をピンと立てると、「わん!」と一つ吠えました。すると、
「きゃあ~! わんですって!」「可愛いぃ~!」
 おばさんたちは風太を取り囲んで大騒ぎです。風太も褒められているのが分かるのか、満更でもない様子でしっぽを振っています。その様子を離れたところから、じっと見つめていた優太くんでしたが、何を思ったのでしょう? その小さな口から飛び出したのは、一声、
「わん!」
「???」
 居合わせた人々は、みなきょとん。
 けれども、次の瞬間、春の公園は何とも温かな笑いの渦に包まれました。

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