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「800字文学館」

リハビリに厭きた

川村 邦生

 リハビリ、リハビリと続く療養にそろそろ厭きがきた丁度そんな時、ある医者の話を聞く機会があった。
 医療で温泉利用を薦める理由は、健康に良いということだが、場所、入り方、温泉の種類を選ぶことで、温泉効果を最大限引き出せ療養に向くというものだ。話の中で転地療養効果ということと合わせ、気をひいた。
 百キロ以上自宅から離れることで、居住地の気圧、電磁波、気候などが変わり自律神経が刺激され、リフレッシュできる。また水の動きのある所には、マイナスイオンが、森林には樹の芳香成分があり、これらがストレス解消にとても良いのだ。
 温泉への入り方は、浮遊浴が1番いいと勧められた。頭を浴槽の端に乗せ、仰向けになり手足を伸ばし、体を湯に浮かせる方法だ。1人だけでないと、ちょっと恥ずかしいポーズで、勿論混浴風呂では禁物だ。

 退院して丁度1年たった秋、かねてより念願だった東北自動車旅をした。
 まずは那須温泉、百キロを超えているので既に転地療養効果の条件をパスした。ただ有名温泉なので1人になれず浮遊浴は出来なかった。続いて高湯、蔵王、遠刈田、鳴子と東京からどんどん離れていく。これで転地療養効果は十分以上だ。しかしもう1つの療養、浮遊浴のない普通の温泉浴が続いた。

 下北半島先端大間で折り返し、不老不死温泉まで戻った。浮遊浴は難しい状況が続いた。奥羽山脈を越え秘境の湯治場、夏油温泉に着いた。家を出て十日以上経過、二千キロ以上走行した。そこは湯場が沢山あり遂に1人入浴の機会に恵まれた。
 浮遊浴が出来るぞと飛びこむと、それは熱い事熱い事、びっくりして飛び出した。「46度以上あるので注意」とある注意書を、焦ったせいか読み飛ばしてしまったのだ。沢山の湯場があったので温めの所を探し浮遊浴を堪能出来た。これで医者の勧める転地療養と、温泉(浮遊浴)療養を満喫できた。

 遠く離れた地で森林浴、浮遊浴しながら1人唸っていると病が逃げていく、このリハビリはいい。

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