映画「100歳の華麗な冒険」の隠喩
「100歳の華麗な冒険」の題名に惹かれ、映画館に入った。意外にも若い客が多い。どんな冒険が始まるのだろう。
田舎の一軒屋で暮らす老人が、愛猫を狐に噛み殺される。怒った彼は導線付爆破装置を手作りし、狐を餌で誘き寄せ、爆殺する。その事で老人ホーム入りとなる。
ところが彼はホームの窓からそっと逃げ出し、鄙びたバスの駅舎へ辿りつく。手持ち金を全て叩いて、次に来るバスで行ける所までの切符を買う。待っていると、傍にやって来た無頼の男に大きなトランクを急に手渡される。「俺がトイレに入っている間、これを手で握り、離すなよ」と脅される。そこへバスが到着、老人は命令通りトランクを握ったまま乗り込む。
出て来た男は大仰天。男はギャング団の運び屋で、トランクには万札の紙幣がぎっしり詰まっていたのだ。ギャング団と老人捜査依頼を受けた警察が別々に老人を追う。
しかし老人は行く先々で新たに知り合った仲間の協力を得て、飄々と追跡を逃れていく。その合間々々に老人が自分の100年間の過去を思い出し、仲間に話す。
幼い頃は火薬遊びが大好きな孤児だった。ある時過失で人を爆死させ、少年院入りとなる。出所した後も爆発装置への興味だけは持ち続け、独学で技術を磨いていく。
スペイン内戦が起ると義勇軍に参加し、嬉々として橋や鉄道を爆発する。さらに米国に渡り、オッペンハイマーに起爆方法のヒントを与え、原爆開発の貢献者としてトルーマンに称えられる。戦後は二重スパイにもなる。20世紀の幾多の重大事件に直接関与する波乱万丈の人生だが、出会う相手には全く無頓着で、爆発技術にのみ特異な才能を発揮してきた。
このコミカルな架空話の主題は主人公の人生遍歴にある。ノーベルが発明したダイナマイトに託け、思想や政治には無関心な科学・技術者の好奇心や才能が勝手にひとり歩きし、結果として社会を大きく動かした事を隠喩的に語る。後にスエーデン映画と知り、然もありなむと肯いた。