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「800字文学館」

モーツァルトコレクション&コンサート『250年の響き』

川口 ひろ子

 表題のイベントに参加した。主催は国際モーツァルテウム財団と第一生命で、会場はお堀端にある第一生命日比谷本社。かつてこのビルにマッカーサー司令部が置かれていた。

 1階正面ロビーに100脚程の椅子が横向きに置かれ、ここが演奏会場。その右側に舞台、更にその奥が展示場となっていた。
 今回のイベントの目玉は、日本初公開となる「モーツァルトがウィーン時代に使用したヴァイオリン」で、その他に、モーツァルトの自筆譜や初版譜、父レオポルトの名著『基本的ヴァイオリン教程』の初版本、肖像画のレプリカ、等20点程が出品されていた。

 7日間の会期中の毎日、このヴァイオリによるコンサートが開催され、私は、11月26日の演奏を聴いた。
 出演は、モーツァルテウム管弦楽団のコンサートマスターを務めるフランク・シュタートラー、フォルテピアノはパリを拠点にヨーロッパで活躍する菅野潤。
 曲目は、2曲のヴァイオリン・ソナタと、幻想曲。いずれもモーツァルトがウィーンに転居した直後の、人気は絶好調、パトロンにも恵まれ、幸せの頂点にいる頃の作品だ。ヴァイオリンは1764年製、フォルテピアノは同時代の製品のレプリカで、10年程前に制作されたもの、とのことだ。
 この様な古楽器の演奏には大変高度なテクニックが必要だというが、音色の美しさが際立つ素晴らしい演奏であった。
 また、二つの楽器の音量のバランスが非常に良い。巨大になり、堅牢になった現代のピアノに比べて、全て木材で出来上がった今回のピアノの、控えめで柔らかな響きの美しさ、まるでモーツァルトのヴァイオリンに合わせてオーダーしたかのようだ。
 2人の名人によって奏でられる、丁々発止のやり取りの威勢の良さ、しみじみとした語らいの時間のぬくもり、精緻を極めた、魅惑的な響きが、演奏会場となったロビーを満たし、聴く者の心を酔わす。

『250年の響き』の終演だ。
心地よい余韻を楽しみながら、重厚なビルを後にした。

2014年12月11日

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