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「800字文学館」

ズ・ブレジンスキー教授

稲宮 健一

 五年前にこの会でズ・ブレジンスキー教授の『地政学で世界を読む』の読後感を書いた。その教授の記事が一月五日の日経に載っているのを目にした。記事はこの著書で主張しているのと同様な手法で、現在の世界のパワー・バランスに関して考察を述べた内容である。
 従来、世界的な覇権の動向は、政治的は大きな事柄を中心に、それに関わる国なり、政治的な団体の動向を時系列で述べる方法が一般的だ。それに対して、教授の方法は世界地図をチェス盤に見立て、国々を駒と考え、ゲームの進行で歴史の流れを記述した。記述内容は的確で、実際の世界の覇権の動向を述べた。これは丁度、梅棹忠夫の『文明の生態史観』と共通した概念である。梅棹は地理的な条件から日本と西欧の文明の共通点をユーラシア大陸の砂漠の文明と対比して論じている。地球規模で国々の置かれた位置を意識して、世界の文明の動向を俯瞰すると言う点で共通する。

 今回特に注目したのは、教授が八六歳で、今でもジョンズ・ポプキンス大学の現役の教授であると言う点である。かつてはカーター政権下で大統領補佐官を務めた。高齢に拘わらず、的確な現状分析と、将来の動向を示唆するのは大変に価値のあることで、このような人材が多数いることは米国の一番の強味ではないだろうか。格調の高い色々な観点の意見を吐露できる社会は明るい。

 日本ではどうだろうか、元中国大使の丹羽宇一郎はかつての商社マンのセンスで多数の現場に足を運び、中国の強味、弱味を見分して結論として、中国が崩壊することは絶対ありえないと断じている。一方長谷川慶太郎は工科系の出身の証券マンで、金の流れの矛盾を捉えて、やがて崩壊すると主張している。このように多岐にわたる意見が表現でることは健全で、書き手は書き手として切磋琢磨し、読み手はその中から的確な判断をすればよい。かつて、大政翼賛会の時代には、自由な判断ができない世論を作り破局に突き進んだ。

(二〇一五・一・十)

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