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「800字文学館」

生きざま、いろいろ

斉藤 征雄

 サクラマスは、生まれた川に回帰する習性をもつ魚です。日本近海に広く見られますが冷水を好むので特に北海道から東北などの日本海側に多く生息します。繁殖期になるとオス、メスとも体色に桜色が現れるのでその名がついたといわれます。
 秋に川の上流でふ化します。そして翌年一年を川で生活して、次の年の春に降海します。海に下るときには、体長は15~20センチです。降海したサクラマスは北上し、北海道沿岸を廻ってオホーツク海にまで達すると考えられています。そこで一年を過ごし、翌年の春に故郷の川に戻って遡上するのです。その頃には体長が60~70センチになっています。
 戻った川で9月から10月頃メスが産卵、オスが精子を放出して受精し子孫を残します。そしてサクラマスの3年の生涯が終わります。

 ご存じの方も多いと思いますが、サクラマスが海に下るとき仲間のなかにはそのまま川に残るものがいます。それがヤマメです。サクラマスの降海型に対してヤマメは陸封型と呼ばれます。オスの多数派はヤマメで、メスは多くが海に下ってサクラマスになるようです。
 ヤマメも産卵して子孫を残しますが、ヤマメの卵とサクラマスの卵はまったく同じものです。ヤマメのオスはヤマメの卵を受精させますが、それだけではなくサクラマスのメスが産んだ卵にサクラマスのオスが精子を放出する際に、ヤマメのオスもちゃっかり便乗することが知られています。
 なおサクラマスは繁殖を終えると死んでしまいますが、ヤマメは翌年も生き残って複数回繁殖するといわれています。

 大海に出て立派な体になって故郷に戻り、子孫を残すと華々しく散ってしまうサクラマスの生き方はまさに王道といえますが、一生涯山奥でくらすヤマメの生き方も決して卑屈ではありません。しっかりと子孫を残しますし、サクラマスよりも長生きして渓流の釣り人を楽しませるその生き方もなかなかのものだと思います。
 生きざまは、魚の世界でもいろいろです。

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