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「800字文学館」

みっちゃんはナイス・バディ

志村 良知

 20代の頃、将来胴周りを気にする日が来るなどとは夢にも思っていなかった。ところが30代半ば頃からそれが現実になった。世の中が後にバブルと呼ばれる好景気に入っていき、新製品開発の現場で納期に追いまくられ、土日も含め一日15、6時間も会社にいる日が続いたためである。当時通勤も車だったのでほとんど歩かず、夜食も含めた4食に加えて深夜にウィスキーをあおる。みる間にウェストがバストを追い越してしまった。
 製品開発のラインから経営スタッフ部門に変わっても生活は変わらず、バブルが弾けると今度は事業リストラでストレスの中、深夜残業が続いた。
 そしてぽっちゃり体型のまま海外勤務となった。任地では出張が多い仕事で否応なしに広い空港を歩き、私的にも頻繁に旅して体を少しは動かしたので惨状は多少改善された。
 しかし、帰国すると出張も旅行も運動もしなくなり、また太り出した。

 丁度その頃、近所にアスレチックジムができ、開業前の第一次会員募集で入会した。
 簡単な筋トレと水泳・水中歩行合わせて一時間程の運動を半年余り続けた。胴周りがすっきり、体が軽くなったと思うようになった頃、職場で三姉妹と称するグループのおしゃべり次女が子分の末娘を従えて絡んで来た。「おとうさん、痩せました?」。嬉しくて「おう、5キロ痩せて、ウェストとバストの差が10センチになったよ」と言うと、「たった10センチぃ、みっちゃんなんか30センチですよう」
 視線の先に長女格のみっちゃんがいた。デスクの前に彼女が立った時、その胸から目をそらすのは不可能であるので、話しながら目が胸で遊んでいても良い、と言う特別許可を得ていたナイス・バディである。みっちゃんは軽く身をひねり、魅惑のカーブを強調して嫣然と微笑んだ。
 うん、良い職場になったなあ。

 あれから10年、三姉妹はそれぞれ母親となり、今年の年賀状では孫が合計で5人になっていた。そして私は出たがる腹と戦い続けている。

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