小ホール近江楽堂で思う
フォルテピアノによる「モーツァルト連弾の夕べ」を聴いた。モーツァルトの時代のピアノは、大きさ、音量、響き、その他すべて、現在とは違ったものであった。その為に、これらの古楽器を、現代ピアノと区別するために、フォルテピアノと呼んでいる。
近年、モーツァルトの作品は、古楽器による演奏や、現代楽器使用ではあるが古楽風に演奏される公演が多い。私も多くのコンサートに通っているが、どうも、その良さを十分に把握できているとは思えない。
現代ピアノに合わせた広い会場でのフォルテピアノの演奏は音量不足で、曲が痩せて聴こえる。また、レプリカの構造が1台ずつ違うためか、音にばらつきが多い点が不満だ。後から編集できるCDなどの再生音に比べ、生演奏には多くの条件が付く。目下のところ、古楽演奏は、私のような聴衆共々、試行錯誤、成長過程にあるのかもしれない。
この夜演奏されたのは、モーツァルトの作品4曲で、フォルテピアノはかつて彼も愛用したというヴァルター工房のレプリカだ。
奏者は新進気鋭の七條恵子さんと松岡友子さん。共にオランダ、イタリアに学び、目下彼の地で、演奏活動と後進の指導にあたっている逸材だ。会場は100席程の近江楽堂。
演奏された曲のすべては、モーツァルトが気力体力共に充実していた頃の作品だ。2人の演奏は、モーツァルトの満々たる意欲もかくやと思わせる、気迫に満ちたものであった。
細やかな粒立ち、美しい音色、七条さんと松岡さんは、音を創り出す喜びを全身で表現する。そしてその喜びは、至近距離で囲む私たち聴衆にもシェアされる。
フォルテピアノの音量が近江楽堂の小さな空間にすっきりと納まり、私は、丸天井に当り跳ね返る音の洪水を浴びながら、夢の世界をさまよう。
今日、経済効率の悪い古楽演奏は世界的なトレンドだ。
音楽の規格品大量生産に対するアンチテーゼ、との説もあるが、この、究極の贅沢が日本に定着してほしいと思う。
2015年2月26日