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「800字文学館」

朝5時46分の悪夢

川村 邦生

「ゴー、ドカン、ガタガタ」シェイカーで振られているような突然の異変、経験したことの無い激震に、震えながら布団をかぶって収まるのを待った。非常灯のあかりの中、枕元に置いてある眼鏡が見つからない。テレビは部屋の端から端に飛んでいき、タンスは崩れ中身は散乱。部屋中何がどこにあるか分からない。
 薄明るくなってから歪んだ窓を開けると、隣の老夫婦が住まう二階建て瓦屋根家屋は爆撃を受けたように崩壊し、その隣もまたその隣も壊れている。今まで見えなかった六甲の山が冬空に見えた。

 芦屋の単身寮から職場がある神戸まで、国道を歩いた。ガス漏れがあるのか臭い。高速道路が六百メーター倒れ車がひっくり返っている様は目を疑う風景だ。崩壊した病院から患者を運び出す医療関係者、必死に消火活動する人、壊れた家屋から助け出そうとしている住民、皆必死だが手助けできない。自分の事務所が心配で足を早めざるを得ないのだ。その時ラジオニュースでは、死者数は約百人と発表していた。そんなものでないと感じた。マスコミはまだ見ていないのだ、想像できないこの悪夢を。

 倒れかかった建物電柱等をよけながら二時間以上かかり事務所に到着した。活断層からたった二百メーター程北に建てられていた建物だが、岩盤が良かったせいか影響が小さく無事だった。
 停電で信号は点かない。交差点を運転者は互譲精神で整然と運転していた。しかしそれも数日間で何故か互譲が失われていった。また日が経つにつれどこから来たのか空き巣が横行するようになった。避難した空き家を狙った泥棒だ。家の中から物を持ち出す姿を誰も疑わなかった。それを見越した犯罪だ。
 崩壊した家屋をバックにピースサインで写真を撮る者が沢山いた。人の痛みにここまで無関心かと怒りを覚え睨みつけた。

 機動性のあるミニバイクでお客様を見舞いに走り回った私の様子が、夕刊フジに記載された。後にも先にもない事だ。

 今年も1月17日朝、黙とうした。

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