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「800字文学館」

男の料理雑感

斉藤 征雄

 晩酌の肴を自分で作ろうと思い立って料理にチャレンジして久しい。
 先ず魚のさばき方から始めた。見よう見まねで、鰯、鯵、鯖にはじまり素人にはなかなか手ごわい鯛や小型の鰤(魬ぐらいまではなんとかさばけるようになった。
 魚を扱うには包丁も重要である。出刃と刺身包丁を揃えた。そして砥石も要ると思い、荒砥、中砥、仕上げ砥を買い整えたが、包丁砥ぎは魚をさばく以上に難しいことが判った。今は専ら電動の砥ぎ器に頼っている。
 小道具では、鯛などのうろことりも必需品である。

 魚屋で手ごろな魚を見つけるとつい買いたくなる。ある時大きな鯔が驚くような安い値段で売っていた。刺身用とある。躊躇なく買って、その日の夕食にカミさんと二人で大皿一杯の鯔の刺身をたいらげた。旨かったが、その夜カミさんがひどい腹痛に襲われた。そのことがあって以来、わが家では鯔は一切禁止になった。
 余談になるが、一般家庭で鯖を刺身で食べることはあまりしない。鯖の生き腐れといわれるほど足が早いからだが、九州では平気で食べる。九州に住んだ時、市場で安く買った鯖を家で三枚におろしてサバサシでやった晩酌の味は忘れられない。

 刺身以外の私のレパートリーは煮物が中心である。煮物の味付けは醤油と砂糖・みりんの1対1が基本で、それをベースに食材やその日の気分でニュアンスを変える。酒に合うのはやはり濃いめの味だが、高血圧の問題もあるので青魚の煮付けなどには適当に酢や梅干し、生姜などを使うと効果的であることも覚えた。

 家庭料理なので経験を積めばそれなりになんとか様になるが、最近はそれをカミさんにうまく利用されている。昼になると「今日は越前おろし蕎麦、お願いね」の一言に従う。夕方になって「今晩はブリ大根にしようかしら」などといわれれば、私は黙って大根の下茹でを始める。わが家の調理場では、私がいくら経験を積もうともカミさんが板長で私が追いまわしという関係は永久不変なのである。
【注】 鰯:イワシ、鯵:アジ、鯖:サバ、鰤:ブリ、魬:ハマチ、鯔:ボラ

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