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「800字文学館」

春節を中国で

内藤 真理子

 春節の中国から日本に観光客が詰めかけているのをテレビで見て、以前、その時期に中国語教室の仲間五人で中国に行った事を思い出した。
 北京の大晦日は閑散としていたが、夜ともなると爆竹が一晩中派手に煙を上げ爆音を立てていた。

 元日の朝、ガイドを雇い静かな北京の市内を後にして歴史文化名鎮「川底(せんてい)下村(かそん)」に向かった。道の端には昨夜の名残で、爆竹の紅い紙切れが散らばっている。郊外に行くにしたがって家々の門には新年を祝う赤いお札が貼られていた。
 北京から九十㌔ほど行った山の中の、すり鉢のような地形の底にその村はあり、二十元の入村料を払って中に入った。
 村には明の時代に出来た、ほぼ完全な四合院建築の住居が七十戸ほどあり、今もそのままの状態で使われているそうだ。道の両側には狭い門口の門が並んでいる。一軒の中に入ると中庭を取り囲んで四軒の家がある。これが四合院建築の特徴で、一軒ずつは狭く、独立した部屋という感じだ。北側の家に家長、左右に家族、南側は、使用人が住んでいる。
 村は「只今観光地に売り出し中」で、どの家でも自由に見学することが出来た。私達が見た家では、北側の家長は留守で、西の住人のお爺さんとお婆さんが、お芋を食べながら迎え入れてくれた。住居の半分が土間で竃があり火を焚いていた。後の半分は腰の高さのベッド兼居間になっているのだが、床下には煙道が設けられ床全体を暖めるオンドルになっていて、外は零下だがとても暖かかった。だがトイレは外にあり、覗いてみると囲いはあるもののおまるが三つ並んでいるだけ。天井も戸も無く寒風に晒されていた。
 村には何軒かの旅館や食堂があった。中国では新年に餃子を食べる習慣があるそうで、私たちもそれに倣った。餃子は、半斤(小麦粉二百五十グラム)一二元(一八〇円)。半斤で二五個位はある。他にも美味しい家庭料理を沢山注文した。それでも一人二百円位、ビールが大瓶四十五円。大満足の昼食だった。

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