友禅染
NHKの番組「にっぽんの芸能」のなかの「ナンノの着物ことはじめ」で、南野陽子が数々の着物を着付け、美しさを披露している。
着物の美しさは日本画で描かれる花鳥風月を大胆かつ繊細に、色鮮かな文様を絵画にまで高め、身にまとい表される。その図柄はここかしこの木々が四季折々に現す色彩が基になっている。京都で起きた友禅染はこの自然の美しさを絵師が和紙に描くように生地に描き、独特な手順に従った緻密な図柄の色を忠実に表す染色技法を使い、発展してきた。その始まりは江戸時代の初期で、その後続く平和な時代に優雅な花模様で着飾る風潮が起き、着物のきらびやかさを競わせ、和の生活に馴染んでいった。京友禅は、加賀友禅、東京友禅へと広がった。
平安時代の女官の着物は十二単で、単色の着物を重ね着して、衿や、胸元に重なる色で美しさを表した。近隣諸国の女性の正装の色形は異なるが、表し方はこれとほとんど同じだ。しかし、日本では江戸時代に入り、四季ごとに変わる、桜を、紅葉をいっぱいに表わし、一歩も二歩も美の感覚が磨かれた。絵画では、浮世絵の構図、色彩の妙がジャポニズムの風を引き起こしたが、友禅の美もそれに匹敵する影響を世界の衣装デザインに与えてしかるべきだ。があまりにも民族的なので、国内に留まっている。
西欧の婦人の正装はローブ・デコルテである。服の美しさは、生地の素材の豪華さや、入念な刺繍などの飾りで表し、単色が基調だ。他に、宝石や、勲章など、富と権力の誇示がさらなる飾りになる。一方、日本では国土を覆う自然の美しさを着飾る。和やかで平和だ。
着物の文様をハワイの日系人がシャツ向きに使い、今までにない柄の男性用アロハシャツが世界に広まった。ビジネス用の背広は黒、紺など、単色の生地が殆どであるが、ある日友禅の美を違和感なく取り込めると、政治的にギクシャクする会議も、和らいだ雰囲気になり、和をもって貴しが生かせるのでは。
(二〇一五・三・十二)