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「800字文学館」

ピケティ先生に学ぶ

野瀬 隆平

 久しぶりに机に向かって座り、本を読んだ。内容が敬意を払うに値すると考えたからではない。700ページもあるその重い本は、とても寝そべっては読めないし、電車の中で読むには活字が小さすぎる。今評判のトマ・ピケティの『21世紀の資本』である。
「資本主義社会では格差はますます拡大してゆく」というのが結論らしい。そんな常識的なことを明らかにするのに、なぜこれほど分厚い本を書く必要があるのか。面倒だと思う気持ちが先にたち、読み始める決心がつかなかった。
 内容もさることながら、表現がくどい上に翻訳文なので読みにくい。すんなりと頭に入って来ない。しかし、読み進めるうちに、日本経済が抱えている問題を考える上で、参考になることが多々述べられているのに気がついた。
 例えば、政府が抱える膨大な債務。どう理解し、どんな解決方法が好ましいのか、歴史に照らして大きな示唆を与えてくれている。

 そもそも、政府と民間の両方の資産と債務をすべて足した国全体の「国富」という観点から見れば、国債のほとんどすべてを日本の民間が持っているのだから、政府の債務が民間の資産でほぼ帳消しとなり、プラス・マイナス、ゼロになるのだ。
 といって、政府が膨大な公的債務を抱えている事実には変わりない。では、国の債務を税で負担するのとどう違うのか。ピケティは、かつて膨大な債務を抱えていたことのあるイギリスに言及して次のように述べている。
「公的債務の水準が非常に高いことは、貸し手やその子孫にとって都合がよかったことも明白だ。少なくともイギリス王室が、かれらに課税して支出を賄った場合と比べればずっとよかった。……無償で税を納めるより、国に貸し付けて数十年にわたって利息を受け取る方が、当然ながらはるかに有益だ」

 日本では、経済学者を含め多くの人が、「膨大な国債残は、子孫に大きなつけを残すものだ」と言っている。ピケティ先生の意見とは正反対の様に思えるのだが……。

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