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「800字文学館」

みしらず柿

藤原 道夫

 一昨年の十一月中頃のこと、知人に柿を二つ頂いた。「会津から送られてきた“みしらず柿”です」と言う。帰宅して袋を開け、一つ手のひらに載せてみて目を疑った。記憶にあるみしらず柿に形は似ているが、ずっと大きくずしりと重い。皮をむいて一切れ口にすると、やわらかな歯ごたえに滑らかな舌触り、ほんのりとした甘さ・・・みしらず柿の食感が蘇ってきた。思いはたちどころに故郷へと飛んだ。

 会津の山村の実家に畑が三か所あり、数本の身しらず柿が植えられていた。木が高く伸び、実がたくさんなる。身の程知らずに多くの実を付けて枝が裂けてしまうことがある、というのが名前の由来だと聞いた。柿の実は赤味が増す十月中頃が収穫の時。梯子に登って手の届くものはもぎ取り、届かないものは先端を二つに割って細工をした長い竹竿の先に小枝を挟み、ねじってもぎ取った。

 みしらず柿は渋柿で、食するために「さわす」作業が必要になる。柿は先ずへたについている小枝が切り除かれ、新聞紙をひきつめた甕か木箱に丁寧に並べられた。そこに如雨露を使って焼酎がかけられた。口に含んだ焼酎を霧状に吹きかけるおじさんもいた。うまいものだ、ついでに焼酎をそっと味わったか。容器はしっかり封じられ、見易いところに約一週間後の開封日が記された。傷みやすい柿で、開封した時にぶよぶよになっているものもあった。食べ頃はそろそろ冬将軍がやってくる十月下旬から十一月初旬、食べながら手がかじかみ、体が冷えた。囲炉裏に手をかざして体を温めた。このことを含めて故郷のみしらず柿の味を思い出す。

 いただいた柿を見つめながら、今やりんごや桃と同じように果樹園で栽培されているのだろう、と想像した。たくさん付く実は早々と間引かれ、一個一個が大きく育てられているに違いない。見事な柿を味わいながら、遥かな故郷の小振りのみしらず柿をもう一度食べてみたい、という思いに駆られた。

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