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「800字文学館」

年賀状と退職

川村 邦生

 10年以上保管していた年賀状を、引っ張り出してきて整理した。
 歳をとるに従い受け取るのが少しずつ減っている。退職を機に義理で書いていた年賀状を減らしたから当然だ。
 整理している中、退職挨拶を兼ねたそれに目がとまり、しみじみと読み返してしまう。
 挨拶文には、やっと自由人になりこれからは好きなことをします、ゴルフ三昧の生活をします、ほったらかしにしていた奥様と旅行やカラオケなどして罪滅ぼしをしますなどと書かれている。本当にそうなのか。退職後の寂しさ、悔しさを我慢し、心配事を押し隠しているように思えてならない。書かれているように奥様が突然暇になった亭主の相手をしてくれるだろうか。
 しばらくの間は喜んでお相手をしてくれるだろう。しかしその状況は長くは続かない。理由は簡単だ。度々となると、次第に互いのペースが合わなくなり「自分だけで行ってください、私はお友達と勝手にやりますので」となるからだ。奥様は地域密着度が広く深い、そこでのお付き合いも大事だ。

 亭主達者で留守がいい状況から、突然亭主は毎日が日曜日になり在宅する。何から何まで頼られる奥様は、ほったらかしには出来なくなる。これが続くとストレスが積み重なり、そしてある日突然爆発、最悪は離婚申出となる。
 それを防止する方法は、勤務時代に奥様と離れていた時間と、退職後のそれをなるべく同程度にすること、そして離れている時間の使い方を工夫することだ。奥様を頼りにせず、濡れ落ち葉族、粗大ごみ族にならないことが一番重要だ。身体がいうこと効かなくなれば、おのずと頼らざるをえなくなる。それまではお互い適度な距離をおくのがいい。キョウヨウ、キョウイクが、退職後の生活では大事だ。今日ヨウ事がある、イク所がある。この二つで奥様は喜ぶ。

 年賀状は読んだ後そのままになっている。旅行話など近況を聞かせてもらいに足を運ぶ事はどうだろうか。
 これでヨウ事ができた、イク所が見付かり健康にもいい。

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