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「800字文学館」

巨大測距儀とクライストロン

稲宮 健一

 先月フィリピン・レイテ沖海戦で撃沈された海底の戦艦「武蔵」の映像が公開された。その中に測距儀が写っていた。横の長さが十五mあり、相手の戦艦までの距離を精度よく計測できる。会戦で向き合った戦艦が、巨砲を撃ち合う戦闘を想定していたが、残念ながら戦闘機、爆撃機によって沈められた。

 戦争の後半、米国は完成度の高いレーダーを開発させ、精度よく狙い撃ちしたり、都市の爆撃の照準に活用した。戦後直ぐに出版されたMITのRadiation Laboratory Series二八冊にレーダー関連技術が詳細に記述されている。巻頭言に米国の全精力を注ぎ込んで短期間で開発したのを誇らしげに述べている。この技術は戦後の電気通信の基礎になった。

 では日本はこの分野で遅れていたか、いやそうではない。レーダーの基本は、電波を光のような細いビームを高出力で送信することだ。その発振源のマグネトロンは一九二七年、世界で最初に八木秀次研究室の岡部金次郎が発明した。今は電子レンジでおなじみのマグネトロンは他の電子管と異なり、電波発生の基になる特殊な形状の空間が電波の周波数を決める。この形状の計算に朝永振一郎が尽力した。

 目標から帰ってきた電波を受信機で扱い易くするため、低い周波数に変換する必要がある。この目的のため、米国は反射型クライストロンという掌に乗る小型で扱いやすい電子管を開発した。日本ではこれが思いつかなかった。そのため、受信した反射波を安定して検出できなかった。米国のレーダーの受信信号はテレビの画面のように、素人が見ても受信映像がすぐわかる。しかし、日本ではこれも思いつかなかった。

 ところが、一九二六年、高柳健次郎が電子式テレビの受信に成功して、ブラウン管にこのレーダーと同じ原理で「イ」の字を表示している。これで分かる通り、要点、要点で、主要技術は確立している。しかるに、これらを統合して、普通の戦闘員に活用できる完成度の高い「電探」を開発する発想がなかった。

(二〇一五・四・二三)

電探(電波探信儀):日本海軍レーダーの呼称
MIT Radiation Laboratory Series二八冊:マイクロ波工学の原典、それまで、貧弱な電線や、ケーブルで構成していた電話網が、マイクロ波を使った大容量、高速の通信網に置き換わった。現在は光ケーブル、衛星通信に取って代わったが、地域の通信網として現在も活用されている。

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