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「800字文学館」

「浜浜」対決

野瀬 隆平

 さすがに「ド・アホノミクス」と、「ド」は付けなかったものの、テレビで堂々と安倍首相の経済政策を「アホノミクス」と称してはばからなかった。同志社大学の浜矩子教授である。

 安倍政権が発足して2年半になろうとしている。株価や、大手輸出企業の業績と賃上げの状況を見る限り、日本経済は回復しつつあるように見える。大胆な金融緩和を始めとするアベノミクスの効果なのだろうか。一方では、地方の経済は落ち込んだままで、中小企業は景気回復の恩恵を受けていないとの見方もあり、その評価は大きく分かれる。
 全く評価せず批判する側の急先鋒が浜女史である。片や評価する側の代表が、経済政策のブレインとして活躍したイェール大学の教授で、内閣官房参与でもある浜田宏一氏だ。立案に関与した者としては当然のこと。

 その極端に意見の異なる二人が、テレビで直接対決するというので、どうなるのかと興味を持って見守った。昨年、女史の講演会を聴きにいったときには、安倍さんの政策を「ド・アホノミクス」と口を極めて酷評していたからである。
 同じ経済現象を目の前にして、経済専門家の間で、どうしてこうまで解釈・評価が分かれるのか。経済学とは果たして社会「科学」といえるのかと疑問に思う程だ。

 大企業の業績が回復し、そのおこぼれが中小企業や一般の人たちにも及んで、次第に潤って来るという「トリクル・ダウン」についても浜さんは、
「あれは、馬がたくさん食べれば馬糞が多く出る。その増えた馬糞をスズメが食べる、という意味ですよ」
と解釈した上で、これは差別的な言葉だといい、いかにも卑しい発想であるかの印象を与えようとする。浜田先生もこれには少々呆れた顔をしていたが、
「良いことを教えていただき、勉強になりました」
と冷静にかわしていた。

 結局、最後まで平行線をたどり、どちらかに軍配を上げるまでには至らなかった。ただ、口下手な浜田先生と、流ちょうに話す浜女史の対比だけは印象に残った。

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