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「800字文学館」

スリナガルへ

川村 邦生

 インド、カシミール地方のスリナガルを訪ねた。
 映画「インドへの道」の印象が強かったからだ。それは独立20年前の英国植民地時代が背景だ。優越意識を持つ英国人とそれを憎悪するインド人の対立が激しい状況下、英国人教授とインド人医師、両主人公の葛藤と友情を描いたもの。スクリーンに映し出される景色も、映画内容同様に素晴らしい。主人公2人の再会と別れの場所、スリナガルが特に瞼に刻まれた。
 川縁に建つ英国風建物を眺められる木橋、湖上に咲く睡蓮とカヌーを漕ぐ人、菜の花畑の真ん中を長く続くポプラ並木路、そのはるか彼方に7000Mを超える雪山が映されている。観賞の後、その素晴らしい場所を訪ねたいと念願していた。
 カシミール地方は、歴史的に非常に複雑な場所で、現在でも紛争が起きている。外国人入域規制があり、訪問は難しい場所だ。だからこそ行きたい気持ちが高まる。

 4月上旬、デリーの気温は40度を超えていた。そこから1時間、カラコルム山脈を右に見ながら、標高1700Mのスリナガルに着陸した。
 機外に出た途端冷気に震えた。気温10度以下、デリーと30度以上の気温差だ。毛皮を着たガイドに案内され念願の場所に着いた。
 周りを見渡し、この目で見る景色、映画にない肌で感じる風、街の匂いなど、2度目の感動は更に大きい。
 雪山から吹いてくる風はとても冷たい。体感気温は0度程、その差40度程、これがスリナガルだ。

 寒いスルナガルを後に、烈暑デリーに戻る。砂漠に近い内陸のデリーは、暑さ真っ盛り、連日40度を超える。湿度が低いので日陰は少しましだがそれでも酷い。人も動物も日陰でぐったりしている。

 デリーのホテルでくつろいでいた時、突然の停電、エアコンが止まった。電力が十分でないインドの大都市は、指定時間に停電があるとの注意を思い出した。
 エアコンの無い統治時代、この暑さに、英国人は耐えきれず避暑地を求めた。逃げるのは当然と、スリナガルの良さを改めて感じた。

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