血まみれのメアリー
昼食にスパゲッティ・ナポリターナを食べた。その時に使ったタバスコの小瓶が冷蔵庫に入っているのを見て、その昔頻繁にグラスを傾けた飲物が思い出される。
生まれて初めてそのカクテルを口にしたのは1970年代中頃のこと。ニューヨークに駐在して、ジョージア、テネシー、ミシシッピー、テキサス他の南部各州の代理店回りをする仕事に従事していたから、毎週のように機上でアルコール飲料のサービスを楽しんだものだ。
ニューヨークからヒューストンに飛んだとき、隣の席にいた中年のアメリカ人女性が「ブラディメアリー」をスチュワーデスに注文していたのを真似したのが最初だった。当時、客室乗務員は若い女性の仕事だったから、スチュワードの出現以前にはキャビン・アテンダントなんていう言い方は誰もしなかった。
十六世紀の英国女王メアリー一世の異名に由来する「血まみれのメアリー」という日本語訳では口にするのも憚れたが、ブロンドの若い女性に通じるようにかっこよく英語で発音するのが内心誇らしかった。このカクテルをオーダーすると、レモンの輪切り一片と氷を入れたトールグラスの横にトマトジュースとウオッカの小瓶、それにタバスコソースが座席の前のテーブルに用意される。ファースト・クラスやビジネス・クラスでなくても無料なのだ。振り返れば、古き良き時代だった。
ウオッカを入れないブラディメアリーは「バージンメアリー」となるのが面白い。セロリをはじめとした野菜スティック等が添えられて出てくることも多い。ビールも一緒に注文して血まみれのメアリーさんに呑ますと、「レッドバード」の出来上がり。トマト風味のウオッカとほろ苦いビールのマリアージュはまさに大人の味だった。
ちなみに、レッドバードからウオッカを除いて、単にトマトジュースをビールで割れば、二日酔いの迎え酒として知られる「レッドアイ」というカクテルに変身。駐在時代には大いにお世話になったものだ。