科学インフラの底流
藍藻を使った光合成の研究が大阪市大で進められていると報じられた。記事によると、温泉のお湯の中に藍藻を入れて、光を当ててメタノールを取得すると同時に、光合成の仕組みを研究するとのこと。一方、東海村のJ-RARCでは原子核の中まで届く中性子を使って、光合成の分子構造の解明を進めている。植物が動物に与える生きる糧の魔法が解ければ限りない恩恵をもたらす。
英国の産業革命で、生活様式の変化が動き出したころ、一七八九年マルサスによる人口論が提唱された。人口の幾何級数的増加に対して、食糧増産は追いつかず、暗い未来を予測した。しかし、外れた。その第一歩は空中窒素の固定にある。空気中に無限にある窒素を化学肥料に取り込むには、人の知恵が必要だった。一九〇九年ドイツのフリッツ・ハーバーがアンモニアの合成に成功して化学肥料が可能になり、耕地面積を広げる以外で食糧の増産が可能になった。空中窒素の固定の次は光合成の仕組みの解明で、これが解けると生活様式が一変するだろう。成果が得られるまで、地味な努力の積み重ねと多くの発想の飛躍が必要だ。
今金融政策で、マネーを市中に溢れさせ、三本目の矢である成長戦略による景気浮上を未だかと煽っているが、革新的成果が表に現れるまでの九九%は華やかな報道とは縁のない地味な活動である。しかし、そこに厚い人脈と、資金が流され、初めて国の底力が涵養される。繊細な職人芸を匠の技として、国の誇りのように騒がれているが、それだけでは強力な底力にはなり得ない。
世界初、江戸時代の村上藩、青砥武平治による鮭の養殖、それが発展してチリの養殖産業を興した。近畿大学のマグロの養殖は今や、産業に育ちつつあり、水産研究所によるうなぎの完全養殖も然りである。何度の失敗にもめげず、新しい水産業を興した御木本幸吉、和井内貞行、稲の北限を北海道まで広げた品種改良など、どれもこれも、教科書に記し、生徒の心の底に収めたいものだ。
(二〇一五・六・二六)
J-RARC: Japan Proton Accelerator Research Complex、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設,