シュヴァイツァーさんはスイス人
幸か不幸か、私は有名なコメディアンと同姓である。一時は名前を呼ばれるだけで周囲がどよめいたり笑いがとれたりした。最近それはないが名前を説明するのに苦労はしない。
当然であるが、外国でも有名人と同姓という人に会うことがある。
シェイクスピアさんは、妙齢のすらりとした美人であった。名門の出なのか英国の得意先の購買マネジャーでタフな交渉相手だった。
レディングのキャラハンさんにはカリフォルニアの警官でハリーという従兄がいるかと聞いたが、笑っただけであった。ダブリンのクレイグさんにも20世紀の初め、ロンドンで日本人留学生に英語を教えた先祖がいないか聞いてみたが、知らないとの答えだった。某国元皇太子妃の告白スキャンダルがあったとき、同国での仕事上のパートナーだった赤毛のヒューイットさんには乗馬がうまい兄弟がいるのか、と勘繰った。
古い喜劇役者の名前のコステロさんはアイルランドのシャノンのやり手ビジネスマンで、空港免税店というのは俺が考えたビジネスモデルだと称していた。ピストルでお馴染みのヴァルター(ワルサー)さんは、東ドイツ崩壊をビジネスチャンスとして婦唱夫随で成功していた。ドイツ国防軍の元帥と同じフォン・クライストさんは、ミュンヘン郊外の精密機械会社の取締役で、部下を男女問わず姓で呼び捨てにするのが印象的だった。
アルザスの勤務先は産院ではなかったが、生産部門長はラマーズさん、そして工場長はなんとドイツ語では妊婦を意味するシュワンゲール(シュヴァンガー)さんだった。人事部長は大ピアニストと同姓のケンプさん、バンジージャンプ好きという噂の颯爽とした女性で顔を合わせると日本人駐在の有給休暇の取得状況を聞いてくるのが常であった。
若い同僚の女友達、シュウェゼールさんは耳を擽るようなフランス訛りの英語を話した。アルザス出身の「密林の聖者」シュヴァイツァー博士と遠縁だという。スイス人という意味なのだと教えてくれた。