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「800字文学館」

カマルグとブルターニュ

志村 良知

 夏盛ん。ヨーロッパはバカンスのシーズン真っ最中である。
 フランス人はバカンスを国内で過ごし、なかなか国外には出かけないという。面積が日本の1.5倍ある国土には、変化に富む海岸から4千mの高山、大渓谷から広い平原、と自然は一通り揃っており、美術館や世界遺産の質も数も世界有数、漁業・農業国で食い物も旨いとなると、観光で外国に出かけようとは思わない、と聞いてもなんとなく納得する。

 フランスの海岸というと、魅惑のコートダジュールを思い浮かべるが、カマルグとブルターニュもフランスの海の恵みと景観の代表である。
 スイスのフルカ峠に源を発したローヌ河は、800キロを流れて地中海に注ぐ。カマルグはその河口に広がる三角州で、湿地帯にはフラミンゴを始めとする大量の野鳥が棲み、白い野生の小型の馬がいる。フランスには珍しい稲作の水田風景もある。白砂の海岸には広大な塩田が広がり、はるか遠くからでも白い塩の山が見える。真っ白なカマルグ塩はフランスのスーパーでは定番である。

 ブルターニュは大西洋に突きだした半島で、標高は最高地点でも361メートルであるが、変化に富んだ地形で、フランスの中の異国である。カルナックなどの巨石遺跡があり、ケルト文化の国で、英国のコッツウオール風な藁葺屋根が見られ、ケルト語の使用が公式に認められている。酒も隣り合うノルマンディと共にワインよりシードルとカルバドスのリンゴ酒系で、フランス唯一のウィスキーの蒸留所もある。魚屋の魚も豊富で新鮮、日本でも知られる生ガキとそば粉のクレープの本場でもある。半島の西側海岸には塩田地帯があり、道端には塩の直売屋台が出ている。ブルターニュの海塩は僅かに褐色を帯びミネラルに富む。

 フランス料理は、岩塩ではなく、カマルグとブルターニュの海塩で支えられている。第一、ブルボンの民が夷狄ハプスブルクの地に産する岩塩などいう怪しげなものを珍重する訳がないではないか。

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