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「800字文学館」

『ドナルド・キーン著作集』より(3)―日本文学の頂点―

首藤 静夫

 キーンさんは日本文芸に造詣が深い。
 ここで記紀・万葉以来の膨大な文芸作品から、彼の最も愛し、かつ最高の評価を与えたい人物・作品を選んで貰ったらどうなるだろう。『著作集』第一巻を基に推測してみた。

 まず「小説」の部。No.1は何といっても『源氏物語』だろう。1925年に翻訳本が出た時、欧米の批評家たちは、その雄大な物語の世界に圧倒されたという。彼らになじみの『ドン・キホーテ』『デカメロン』『アーサー王物語』などに擬せられたとか。
 次は600年の間をおいて「西鶴」を推すと思う。『平家物語』が間に挟まるが作者が特定できないのが残念だ。
 2番目は「演劇」。
 日本の演劇は、「その美しさと他の国の文学に類例を見ない多様な形式」とキーンさんは高く評価する。No.1は、「世阿弥の能」と言うだろう。七五調の詞章が至高の域だという。「格調が高くて、表現が間接的で象徴的」と劇作家イエーツの賛辞も紹介している。
 「近松の人形浄瑠璃」が次にくるのだろう。歌舞伎もこのジャンルだ。
 最後は「詩」の部。韻文の分野と広く考えよう。
 長い伝統分野だけに候補が多い。万葉集以下、古今集、その後の和歌、連歌、俳諧、俳句、短歌、近代詩と膨大な作品・作家の中からどう選択するか。
 古くは万葉・人麻呂や、かなによる「たをやめ調」の和歌を確立した紀貫之、和歌の大成者・藤原定家がいる。西行や和泉式部もすばらしい。下って俳諧・俳句では芭蕉、子規がいる。近代では斎藤茂吉、萩原朔太郎など。
 作品だけで評価するか歴史的意義を重視するかで評価が異なるだろうが、No.1は「芭蕉の俳諧」というのではないか。彼の惚れ込みようは大変なもので、その紹介は別の機会にしたい。
 この他、評論・エッセイでは、吉田兼好、本居宣長などの傑物がいる。
 こうして列挙するだけで気持がいい。日本は長い歴史をいたずらに引きずってきたわけではない。それを再認識させてくれたキーンさんに感謝します。

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