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「800字文学館」

ウエイティング106番

川村 邦生

 7年待ってやっと当たった。世田谷区の貸し農園にだ。
 生まれが三重県の田舎で、3歳までじいさんばあさんおじさんおばさん等農作業の超プロフェッショナル親戚連中に囲まれて育った。
 次男の私をこのままここで育て、長男の父や兄の代わりにご先祖様から伝わる農地を守らせるのだとじじばばが言っていた。そんな恵まれた環境にいたが、その通りにはいかなかった。しかし体の中にお百姓魂のDNAが残っていた。

 現役を退いたら、畑仕事をやりたいとの希望があった。しかし都会に住む者としては農地の確保が難しい。そんなある日世田谷区が行っている貸し農園制度の事を知りすぐに申し込み手続きをした。
 抽選は年に一回行われ、その結果を申込者に通知するとの事で楽しみに待つ。年を越し世田谷区農園管理課からの封筒が届いた。当然当たったと喜びながら開封した。しかしそれには待機人数だけが記載されていた。106番という事は何年程待つのだろうかと想像もつかず管理課に照会した。5、6年は待つでしょうとの回答だ。その待ち期間を聞き打ちひしがれた。
 その後年初に管理課から封筒が届くようになった。そこには毎回人数が記載されているだけだ。106人割る5年という事は1年で20人ぐらいづつ繰りあがるかと思いきやほとんど変わらない。4、5年過ぎても状況は変わらない。そんな中、一昨年夏に入院騒動が起こりすっかり畑仕事をあきらめていた。

 今年の一月、突然の当たりくじ。しかし当選はしたが体が心配だ。ダメなら返上すればいいと申し込んだ。
 春先からいよいよ土作り、畝作り等畑の整備をし、簡単なジャガイモから開始し、枝豆、トマト、ナスと順調に進んだ。収穫物を楽しみにする作業はいい。しかしここにきて作業中断だ。とんでもない猛暑が始まり草取りも危険な状況となった。
 念願かなって始めた畑仕事、残念だが体あっての事だ。暑さが収まるまで一時休止とし、秋からの作業を勉強する準備期間とした。

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