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「800字文学館」

パクリと本歌取

首藤 静夫

 五輪エンブレムのパクリ疑惑は、ついに決定作品の白紙撤回となった。新国立競技場のこともあり、「白紙撤回」が今年の流行語大賞にならねばよいが。
 話かわって、下の句は八月の当クラブ句会に私が提出した句の一つである。
 浅間嶺や水引草に風の立ち
 軽井沢旅行で作ったものだ。抒情詩の愛好者なら、どこかで聞いたようなと思うだろう。これは、立原道造の詩「のちのおもひに」の一節がモチーフになっている。
「夢はいつもかへって行った 山の麓のさびしい村に 水引草に風が立ち 草ひばりのうたひやまない しづまりかへった午さがりの林道を……」
 何だ、浅間山をくっつけただけではないか、とお叱りを受けそうだ。私も提出をためらったが、内輪の句会ゆえ悪戯心で出した。あとで言い訳をと考えていたのだ。道造は大好きな詩人で、折にふれ彼の詩を思い出す。これも自然に浮かんだ句だったが、得点は期待していない。
 ところが、この句に3票も入った。「水引草が効いている」「新鮮だ」と過分なお誉めだ。さあ、困った、言い出しにくい。
(まあいいか、そっとしておこう)

 俳句はその短さ、季語の存在、感じ方の伝統などから、似通った作品ができやすい。たとえば、芭蕉の名句「此の道や行く人なしに秋の暮」を本歌として、蕪村はこれも有名句「門を出れば我も行く人秋のくれ」を作った。
 これはパロディとして許されているのか、それとも蕪村先生だからか。
 本歌取は長い歴史があり、藤原定家などはその名人だったそうだ。自己弁護かどうか、本歌取の心構え・ルールまで制定したとか。
 今回は、着想や語彙を詩から拝借したが、この句がパクリになるのか、どうだろうか。
 句会の翌月、各部会合同の成果報告会で私のこの句が秀句の一つとして紹介された。何とも面映ゆい。折も折、その日、五輪エンブレムの白紙撤回で大騒ぎになっているではないか。
(大変だ、自分の知らぬ間に誰かが好意で推薦し、今年の俳句大賞に選ばれたらどうしよう)

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