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「800字文学館」

宮本亜門演出の『魔笛』

川口 ひろ子

 二期会オペラ劇場公演、モーツァルトの『魔笛』を鑑賞した。
 宮本亜門による新演出のこの舞台はリンツ州立劇場との共同制作で、1昨年のリンツでの初演は大成功だったと報じられている。

『魔笛』は、西欧で昔から親しまれているお伽話に題材をとったドイツ語オペラである。王子様が見知らぬ国に迷い込み、魔法の笛の力を借りて苦しい修行に耐え、沢山の試練を乗り越えて、賢い大人に成長して行く。
 今回の宮本演出では、この部分がコンピュタゲームの中の物語として語られていた。

 序曲が演奏されている間に前口上の黙劇が追加上演され、これが傑作であった。
 舞台は、現代日本のサラリーマン家庭。正面に大きなTVモニターが置かれ、3人の息子とお爺さんがゲームに夢中。そこに、憔悴しきったお父さんが帰宅、黒鞄を放り出して大暴れだ。息子たちやお母さんにも手をあげ、お母さんは家を出てゆく。ドメスティックバイオレンスによる家庭崩壊だ。このままではダメだ。お父さんは旅に出る決心をする。その時モニターが爆発、お父さんはこの中(ゲームの世界)へ飛び込んでゆく。大音響を伴ったプロジェクション・マッピングによる爆発のシーンはまことにリアルで、思わずのけぞってしまった。
 プロジェクション・マッピングとは、コンピュータで作成された3D映像を舞台に投射する照明方法で、目下世界的に大流行しているという。

 いよいよ開幕だ。王子様となったお父さんは大蛇に襲われる。プロジェクション・マッピングで描かれる蛇は、くねくねと地を這うのではなく、ひらひらと舞台一杯に空間を泳いでいる。大きな白いリボンが閃いているようで蛇の不気味さはない。
 多くの困難を乗り越えて人格者となって帰宅したお父さんは、家族との再会を喜び、目出度く幕となる。

 古風な西欧のお伽噺に最新鋭のテクノロジーがごく自然に馴染んでいる。更にそこにモーツァルトの壮麗な音楽が鳴り響いて、大変見応えのある舞台であった。

2015年9月24日

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