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「800字文学館」

セロリのポタージュスープ

池田 隆

 一センチ大に切ったジャガ芋と玉ネギを鍋で軽く炒める。具が浸る程度に水を差し、刻んだセロリの葉をのせ、火を通す。鍋ごと冷まし、ミキサーでドロドロ状にする。再び鍋に戻し、牛乳で薄めて加熱し、コンソメスープの素と塩胡椒で味を調える。さらに生クリームとバターを加え、まろやかさと風味をつける。沸騰直前で火を止めると出来上がり。舌にセロリの香りが残るポタージュスープは私の十八番料理である。
 普段は切り捨てるセロリの葉部分を有効利用できる点が気に入っている。応用性も高くセロリに替えて茹でたゴボウを用い、最後に冷蔵庫で冷すと夏向きの乙なスープとなる。

 三日前に妻は何か用件があるとかで、蓼科の山荘から東京の自宅へ戻った。しかし山での独り暮らしには慣れている。朝の軽い散歩の後、遅い朝食の準備に取りかかる。デッキのテーブルと椅子にテーブルクロスを掛け、一人分の洋食器類をセットする。
 大きな平皿の上のスープ皿に熱々のセロリのポタージュスープを注ぐ。横にはベーコン・エッグ。電気パン焼き器より取り出したパンは熱すぎてスライスもできず、ブロックに切るのがやっとである。ジャムはこれまたお手製のプルーンジャム。近くの湧水で汲んだ水で、挽きたてのコーヒーを淹れる。
 十月後半の信州山麓はどこも華やかだ。一人でゆっくり食事する私を、木々が前から横から上からと取り囲み、微笑みながら見つめている。こちらもつい目で肯き、語り掛けたくなる。
 木々の装いは日に日に変る。暗紅色だったドウダンが鮮やかな真紅となり、ハゼや蔦と色を競い出す。一本の楓は緑、黄、赤に染まった葉の錦を纏う。白樺やコナラの緑、黄、茶のグラデーションも奥ゆかしい。
 時々刻々の表情も豊かである。太陽の位置や雲による陽ざしの変化で躁になったり、鬱になったり。風が吹くと、ハラハラと涙のように葉を落とす。
 木々が親しい友人や家族のように思え、彼らにも振舞いたい気分でスープを啜っていく。

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