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「800字文学館」

オペラ雑感

都甲 昌利

 ロンドンのビクトリア時代に完成した豪華なオペラの殿堂「ロイヤルオペラハウス」がある。通称コベントガーデンと言っている。
 かつて、オペラは大変贅沢なもので、富と繁栄の象徴だった。従って貴族など上流階級が楽しむものとされた。よくオペラは日本の歌舞伎と比較されるが、歌舞伎は庶民の楽しみだった。オペラにはどんな人たちが行くのだろうか。
 ある調査によると、①本当にオペラが好きな人②オペラ関連で職業的理由により行く人③オペラというものを一度は観てみたい人④「昨夜、コベントガーデンに行きましてね」と他人に自慢したい人、とある。
 オペラは、世界的指揮者による一流シンフォニーの生演奏、一流オペラ歌手による歌唱が聴けるし、舞台も豪華で美しい、演劇的要素があり観客は魅了される。

 私のロンドン在勤時代、仕事柄お客様に切符を頼まれた。私が一番心がけるのは、お客様の希望もあるが、どのお客様にどの座席券を手配するかであった。
 美しく正装した貴族たちの席はロイヤルボックス。次いでオーケストラストール、ストールサークルと続く。バルコニーは4階席だ。ロイヤルボックスには時折エリザベス女王がお見えになっていた。アンフィシエターは最上階の階段席だが、入り口が正面ではなく建物横にある。ここは馬車の御者のための出入り口だと聞いた。如何にも階級社会のイギリスだ。更にもっと興味あるのは、その上階のアッパースリップという木製の長椅子の席がある。この席にたどり着くにはかなりの忍耐と体力がいる。値段は2ポンドと安く誰でも観ることができる。金のない庶民層にも配慮しているのもイギリスらしい。
 日本人は皆金持ちで私が手配したのはオーケストラストールかストールサークルだった。

 最近来日するオペラも多い。ニューヨークMET、ベルリンオペラなど世界有数の歌劇団だ。しかし、値段がべらぼうに高く庶民には高根の花だ。所詮、オペラは未だ王侯貴族のものなのか。

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