作品の閲覧

「800字文学館」

レトロなポーランドオペラ

川口 ひろ子

 ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場の引越し公演、モーツァルトの『フィガロの結婚』を鑑賞した。
 オペラは愛好家だけのものではない。質の高い舞台を手頃な料金で、というこの劇場の理念は日本各地の人々の共感を呼び、これまで多くのファンを得てきた。来日7度目だという今回の公演も期待して出かけた。
 しかし、古いスタイルの舞台は、最近のニーズに合わなくなったのか、いささか寂しい公演となった。

 指揮は、ズビグニエフ・グラーツァ、軽快なテンポが心地よい。このマエストロ、序曲が終わるや否や、客席の方を振り向き「どうです?」とばかりに、笑いかける。昨今見かけない懐かしいスタイルだ。客席は喜び、盛大な拍手で応えて、開幕だ。
 フィガロとスザンナの結婚を巡って湧き起こる上を下への大騒ぎ。時代設定は18世紀末頃だ。
 地味な色合いの衣装と簡単な舞台装置、場面転換は舞台奥の幕やパネルで行う旅興行スタイルだ。ペラペラして安っぽいが、これはこれで哀愁を帯びていて風情がある。
 どの歌手もアリアの時は、正面を向き、構えた後に歌い出す。モーツァルトの旋律をじっくり鑑賞できて嬉しい。歌手たちの正確無比な歌唱は素晴らしい。が、平素は、室内歌劇場という、狭い空間で歌っているためか、声量のない人が多い。また、面白みに欠けるのは、国立の研究機関も兼ねているからかもしれない。

 この日のホールは空席が多く驚いた。別の日に、もう一つの演目『魔笛』を鑑賞した友人も空席の多さを嘆いていた。
 最近10年で、我が国のオペラを取り巻く環境は大きく変わった。オペラを豪華な時代劇としてではなく、例えば「戦争」など、現代人の問題をテーマにして是非を問う。これが昨今の主流だ。
 私はレトロなオペラも嫌いではないが、今回のような旧態依然とした舞台では、日本の市場の変わり身の早さに付いていけないのではないか、と思う。
 次回の来日公演までに、演出面の軌道修正は有か? 大いに期待している。

2015年12月6日

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧