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「800字文学館」

町内総出の冬支度

首藤 静夫

 師走に入って好天が続く。今日は町内の一斉清掃日だ。新年をひかえて、近くの街路樹の植えこみや道路、側溝などの清掃をみんなで行う。
 男たちは枝打ちばさみやスコップ、リヤカーなどを持ち出し、一足早く仕事に取りかかる。女たちは、草刈り用の鎌やゴミ袋を用意して、男たちの後をきれいに片づけていく。半日仕事だ。
 町内総出といってもそれは掛け声だけ。参加者は30人ほどで全体の1割に満たない。顔ぶれもほぼ同じで大部分が年配者だ。昔からの土地の人か私たちのようにここに持家して長くなった人たちだ。全国どこでも同じような光景なのだろう。
 新潟に勤務していた時、土地の人から、「三代住まないうちは旅のお人というんだ」と聞かされ驚いた。東京でも「江戸っ子は三代続いてから」という。土地に根づくにはそれだけ時間がかかるのだ。
 参加者は、町内のいろいろの行事にも駆り出されており気心が知れている。それに毎年のことだから役割もわかっていて手際がいい。お婆さんたちが張り切って出てくる。恰好は様になっているが、なにぶんにも体が動かない。横を車や自転車が通るから危なくもある。出てくれない方がありがたいが、ご当人たちには年に1、2度の楽しい顔合わせなのだ。健康や孫の話などで、手より口が止まらない。
 NPOがお世話しているケアハウスが町内にある。軽い精神障害者のための施設だ。療育をかねてだろう、7、8人の若者が引率されて手伝いに現れた。年寄りたちが上手に迎え入れて作業アドバイスする。この時期、茶毒蛾が山茶花についており要注意なのだ。共同作業でお互いに新しい空気が生まれたようだ。
 最後に新任の町内会長がねぎらいの挨拶。どぎまぎして言葉が出ない。
「皆さん、お疲れさまでした。おかげできれいになりました、でいいのよ」とベテランの婦人部長に促されて、ますます言葉が出ない。
 この婦人部長を御していくにはこれも時間がかかるな、とちょっと同情する。

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