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「800字文学館」

戦争絵画

大月 和彦

 田舎の生家で「大東亜戦美術」という大型の画集を見つけた。
 日中戦争から大戦中にかけて戦地に派遣された画家が描いた戦争絵画を集め、昭和18年12月に都美術館で「大東亜戦争美術展覧会」(朝日新聞社主催)が開催された。展示された作品のうち海軍関係の絵画など100点余が収載されている。

 画集のトップには、藤田嗣治の「天皇陛下伊勢の神宮に御親拝」の絵。暗い木立の中を参拝される陛下は威厳に満ち、厳粛な雰囲気が漂う。 
 2ページには宮本三郎の「大本営御親臨の大元帥陛下」。地下大本営の一室の中央に陛下が座り、左右に陸軍と海軍の将官5人が向かい合う図。3ページに小磯良平の「皇后陛下陸軍病院行啓」。二列に置かれたベッドに両目に包帯をするなどの傷病兵が正座して皇后陛下を迎える図。
 現人神天皇陛下の「神州は不滅」の思想と、皇室へ忠誠心を養う意図が見える。
 4ページ以下には90人余の錚々たる画家が描いた戦争絵画が載っている
 藤田嗣治の「○○部隊の死闘―ニューギニア戦線―」、高澤圭一の「嗚呼山崎部隊」、向井潤吉の「マユ河畔にて」など。
 上陸作戦が終わった密林や海岸に累々と横たわる兵士たちを描いた「死闘図」などがあり、戦闘の凄惨な実態が描き出されている。
 海戦を描いた絵が十数点。魚雷が命中し、黒い火炎を吹きあげて沈んでいく艦船。艦上で砲撃する水兵、空母甲板に並んだ戦闘機など皇軍の奮戦ぶり伝えている。

 戦後、これらの絵画は占領軍が没収し米国に送られた。
 その後無期限貸与という形で日本に戻され、東京国立近代美術館に「戦争記録」として保管されている。この秋、藤田嗣治全所蔵作品展があり、「アッツ島玉砕」」など戦争画14点も公開された。

終戦後美術界で、戦争画を描いた画家の責任を問う声が起った。矢面に立たたされた藤田は「戦争画家もまた戦時下の国民としての任務を遂行したに過ぎない」と反論した。その後まもなくフランスへ移住、国籍を取得し、再び日本に帰ることがなかった。

(15・12.24)

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