ヤスパースの平和論
実存主義哲学者ヤスパース(1883-1969)は世界平和について次のように述べている。
世界平和の絶対条件は、諸国家が内的に平和であること、内的平和の絶対条件は、国民一人ひとりが自由であることである。精神的に自由な人間は、未来の可能性を知りそれに向かって自由に対処する姿勢をもっているから。
人間はお互いの秩序のために国家共同体を作った。それを世界規模にまで拡大しても、原理的な限界はなく、世界平和は決してユートピアではない。
人類社会から戦争をなくすことを不可能と考えることが、知らず知らずのうちに戦争に協力することになり世界平和を破壊することになる。
歴史観も独自のものを持っていた。
西欧社会は、イエスが生まれた年を紀元として歴史の基軸を置いてきたが、それは人類全体を反映していない。
人類は、紀元前500年頃を中心とした前後300年の間に一大エポックを経験した。この時代、中国では孔子、老子をはじめ諸子百家が輩出し、インドではブッダが出て仏教が、イランではゾロアスター教が生まれた。パレスチナではイザヤやエレミヤを経てキリスト教の先駆者である第二イザヤなどの予言者が現れた。そしてギリシャではソクラテス、プラトン、アリストテレスの三大哲学者が生まれた。
つまりこの時代に人間が物を考える基礎がつくられ、後のあらゆる思想の根源になった。しかも地理的に離れ、何の連絡もなしに、地球規模で同時平行的に起こったのである。
人間の精神的ふるさとともいうべきこの時代を、ヤスパースは軸の時代と呼んだ。
その意義は、西欧中心史観からの脱却である。西欧つまりキリスト教中心の歴史観、価値観だけではなく、他の文化からも学ぶことの重要性をいう。
歴史の担い手はもはや特定の文化を持った人種、民族ではなく全人類だ、というメッセージである。そして目指すところは、全人類を包む平和の秩序である。
ヤスパースにあやかり、戦争のない世界平和の可能性を信じたいものである。