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「800字文学館」

異説『禁じられた遊び』

志村 良知

 映画『禁じられた遊び』の音楽。タイトルバックとラストシーンのほか随所に流れる「ロマンス」が圧倒的に有名で、この曲以外が話題になることはない。原曲はスペイン民謡だと言われるが、この映画でナルシソ・イエペスが世に出す前には全く知られていなかった。

 実は、この映画には「ロマンス」以外に、ギター曲4曲が使われている。いずれも当時無名の曲で、ポーレットとミシェルの出会いのシーンに、スペイン民謡から「アメリアの誓い」、後に日本のバラエティー番組の元祖『シャボン玉ホリデー』の連作ギャグ「おとっつぁん、お粥ができました」のバックにも流れた曲である。他の3曲は、フランスの古い作曲家ロベルト・ド・ビゼーのギター組曲から「ブーレ」と「サラバンド」、同じくジャン・フィリップ・ラモ―のバレエ音楽から「メヌエット」。これらは、全て二短調という優しさに満ちた調子で、イエペスのギター演奏により全編に散りばめられている。

 5曲のギター曲と全く趣を異にするのが、フランスの童謡「相棒ギエリ」である。真夜中の墓地から大量の十字架を盗んだ二人が、遠くに炸裂する高射砲弾の光の中を手押し車で運ぶ場面でポーレットが歌う。本来可愛く軽快なメロディーの童謡であるが、甲高い調子外れの声と奇妙な歌詞が場面状況と相まって、歌うポーレットに対し、可愛さより人間ではないもののような異様さを感じさせる。

 裕福な家庭に育ち、五歳になるのに十字架も主の祈りの言葉も知らない、というポーレットが単なる異教徒ではなく、悪魔の化身であるとすれば、この映画の謎も解けてくる。
 ドイツ軍爆撃機に難民の群を戦車部隊に見せかけて攻撃させ、両親を時空を越えて未来から来た戦闘機の下に誘きだす。純朴な農村に放れ馬と共にやってきて、ドレ家に長男の死という禍をもたらし、信心深いミシェルを惑わして禁じられた遊びの罪に堕とす。最後に孤児救済の赤十字も、映画の観客をも騙して雑踏に紛れ込んでいく。

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