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「800字文学館」

映画『キャロル』を観て

内藤真理子

 アカデミー賞最有力候補!の前宣伝に乗って映画『キャロル』を観た。近ごろ話題の同性愛を取り上げたものである。

 クリスマス前のデパートで、毛皮のコートに身を包んだ金髪の優雅な婦人客キャロルと、アルバイト店員のテレーズが出会う。
 テレーズは、少女と大人との狭間の清純さをただよわせた一途さで、キャロルに憧れる。多くの若い子が抱く、私もあんな風になりたいという思いはやがて……と物語は展開する。
 キャロルは、成熟した大人の落ち着きと包容力を体全体から醸し出している。夫との離婚を望み別居状態にある彼女は、幼い一人娘を狂おしいほど情熱的に愛している。かつては夫にもそのような愛の表現をしたのだろうと思える程、抱きしめ、愛撫し、その包容力で身も心も捧げるような愛し方である。
 夫は復縁を望み、その手段として娘を彼女から取り上げた。キャロルには結婚する前に女性と愛し合っていた過去があり、もし再燃したのだったら、二度と子供には会わせないと。
 ストーリーは自然で、キャロルは、男であろうと女であろうと愛している人と共にいたい。まして自分の子どもを愛するのに、条件など必要はないと主張する。
 キャロル役のケイト・ブランジェットは、主張した通りの役作りをしていたとは思うが、魅惑的すぎる。子供に対する愛し方に違和感を感じた。私も彼女の主張はもっともだと思うが、男、女、子供、それぞれに対する愛情の質は違うのでは……。
 画面ではテレーズとキャロルのベッドシーンがあった。
 キャロルは余裕たっぷりの優雅さでテレーズを抱擁するが、貫禄がありすぎる。一方、テレーズ役のルーニー・マーラは、若くて、少女のような風貌で、恋する一途さを好演していたものの、二人の年齢差はいかんともしがたい。大人と子供の師弟愛のように見えた。たとえば、信長と森蘭丸のような。
 先入観のせいか、ベッドシーンを見てもときめかなかったが、女優ケイト・ブランジェットは、魅力的でうっとりした。

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