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「800字文学館」

重力波検出

安藤 晃二

 つい二週間前、米国の研究チームが重力波の検出に成功した。そのニュースに接したノーベル賞学者、梶田氏の笑顔が印象に残る。今回の発見では十三億年前のブラックホール合体時のシグナルを捉えたという。
 一般人の理解を超える世界であるが、ブラックホールなど巨大質量物体が動くとき時空が歪む、その歪みが波のように光速で伝わるのが重力波だ。アインシュタインは、その一般相対性理論に基づき重力波の存在を百年前に予言した。

 この件で、MITの物理学者、小説家、人文科学部教授であるライトマン氏の論説が興味深かい。
 重力波の存在は、アインシュタインの理論と、宇宙観察から間接的に推測され、疑う余地はなかった。今回の成果の凄さは、原子核の千分の一の距離の変化を計測可能な装置、LIGOを建設、重力波到来時に実際に計測を果たしたことだ。これまで、宇宙からのX線等、電磁波は検出できたが、重力波は全く異質なもの、「音」と「光」程の差がある。見る事はできる聴覚障害者にとって、人の話、音楽等理解する「音」を得た様なものだ。重力波検出により、宇宙生成以来の超新星爆発やブラックホールの形成を知ることができる。今後解明される事象は想像を絶するという。
 ライトマン氏が記者会見を見て感動したのは、チームリーダーである、ソーン、ヴァイス、ドレヴァーの三博士達が、皆七十歳台半ばから八十五歳の老人である事実、一人は痴呆を患う。彼等がLIGO装置による気違いじみた計画を始めてから四十年が経過している。米科学財団にしても、この野望を疑う理由は十分あったのだが、希望と祈りのみがこの研究を支え続けた。

 迷える現代社会、特に米国はすべからく性急な結果を求める。企業活動然りである。ライトマン氏は七十年代、ソーン教授の学生だった。教授は物理学のみならず、物事へのアプローチの仕方を忍耐強く教えた。実例を示して今も教え続ける。

 重力波検出がもたらす人類への福利は何か、見極めたいものだ。

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