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「800字文学館」

大御所も絶賛

松谷 隆

 我が家では朝8時からNHK BSプレミアムの番組を楽しんでいる。月曜日から金曜日まで、飽きのこない番組が続き、なかでも木曜日の『英雄たちの選択』が待ち遠しい。  歯切れの良い語り口の磯田道史史学博士の司会で、東西の英雄たちが困難に直面した場面を想定し、自分ならどの選択をするかをパネリストたちが議論する。恐らく彼しかこの司会はできないだろう思わせる博識に、さすが博士だと納得する次第。

 その彼を「骨太の歴史観の持ち主で、日本語も素晴らしい。日本の将来を任せられるひとりかも」と絶賛した人がいたことを昨年末初めて知った。昨年8月に亡くなった文化勲章受章者の阿川弘之で、『文芸春秋』巻頭随筆を集めた『エレガントな像2―葦の髄から』のなかの『武士の家計簿』である。

 彼は平成16年10月号に、若い世代への要望として「……日本が経験した戦争の経緯を事実のみに即して、筋骨たくましい世界史と結び付け、『史記』のように千年後2千年後の読者が味読するに足りる史書を作り上げる平成の麒麟児は現れないものか」と書いた。  その随筆を読んだ新潮新書の編集長から「あなたの巻頭随筆に同感だ。骨太の歴史観の持ち主である平成の麒麟児の作品、ぜひ一読を」と『武士の家計簿』を贈呈されている。

 阿川は繰り返し読んだにちがいない。随筆には「平素私は、『だった』、『だった』、『だった』と、機関銃みたいな文章書くな」と言っているのに、20代30代の自作を見直すと「だった」止めが多いとのこと。それに引き替え、『武士の家計簿』には1カ所もないとの驚嘆とともに、著者がどのように日本語の文章修業をしたのかと興味を示している。

「かなり年配の言論人から……若い年代に優秀な人材が育っているとよく聞く。そのたびに磯田氏が思い浮かび、他の分野でも彼レベルの俊秀が何百人、いや何千人も育っている違いない。彼らになら、……日本の将来を委ねて大丈夫だろう」と結んでいる。

(平成28年3月23日)

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