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「800字文学館」

「萌え」現象

斉藤 征雄

 最近世の中の動きについていけないことが多いが「萌え」現象もその一つである。「萌え」に草木の芽吹きしか連想できない人は私と同類かも。

「萌え」はアニメやゲームなどに登場するキャラクターへの強い好意の気持ちを表わす言葉なのである。好きなどというありふれた気持ちではなく、またセクシュアルな恋愛感情とも違う。かばってやりたいとかそっとしておきたいなどの入り混じった感情という。既成の言葉に適切な表現が見つからない感情、強いていえば「心に春を感じる」とでもいうような語感という人もいる。他にもいろいろなニュアンスがあるらしく、人によって使い方が一律ではないので定義が難しい。

 いずれにしても相手はゲームなどのキャラクターなので、実在するものではなくファンタジーな世界のものである。生の人間が擬人化したものに抱く感情だから、既成の言葉の枠にはまらないのももっともなことだとは思う。
 最初は、メイドのコスプレカフェなどに集まるアキバ系のオタク青年の間で使われ始めたスラングだったが、それがサブカルチャーとして認知され、ある種の若者たちの言葉として市民権を得ていったといわれる。だから、使うのは何らかのオタッキーな人が多いらしい。
 本来「萌え」は動詞の語幹だが「萌え萌え」とか「萌え~!」など名詞や感動詞としても自在に使われる。
 ただ、いい年の青年が独りで「も、もえ~」と感動する様を想像すると、私は「お、おえ~」と吐きそうになってしまう。

 この「萌え」現象、最近は一層無機質化して、戦争や兵器さらには軍隊に舞台設定がされている。「ガルパン」とか「艦これ」とかいわれるアニメやゲームが流行っているらしいが、少女キャラと戦争という異質な取り合わせに「萌え」を感じるのだという。
 こうした時流をとらえて自衛隊が、隊員募集のPRに萌えキャラを使って「今どきの萌える就職先」などと宣伝しているから驚く。まさか、ゲーム感覚で戦争が出来る人材を集めているのでもないだろうが。

 「ガルパン」:「ガールズ&パンツアー」の略。戦車道(戦車を使った武道)をたしなむ女子高生のアニメ
 「艦これ」  : 「艦隊これくしょん」の略。軍艦を擬人化した少女キャラクターを育成して敵と戦うゲーム

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