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「800字文学館」

京の紅しだれ桜

稲宮 健一

 暖かさに誘われ京都の紅しだれ桜を見に行った。早朝、新幹線に乗り、九時前には京都に到着、これから数か所の桜の名所を足と電車で巡る団体旅行だ。午前中は二条城、京都府庁、京都御所の桜を見て回った。二条城に桜はあまりない。久しぶりに大広間や、大政奉還当時の諸大名の裃姿など見て回り、次は府庁、御所の桜。満開だったが、一本、一本の大木に思いっきり広げた枝の花の眺めで、一面が桜々で埋まる千鳥ヶ淵とは趣が違う。桜の中に入っちゃったという感じはしない。

 昼食後、下鴨神社を通って、鴨川沿いの「半木の道」を訪れた。そばにある流れついた神木に由来する半木神社から名を取った。この道は鴨川の土手に植えられている紅しだれ桜が一㎞弱続いている桜のトンネルである。桜は五m置きに植えられ、竹の棚が土手の端から、川の中の方に向かって、頭より少し高いところに張り出している。竹の棚の紅しだれ桜の枝が頭の上を覆い、花びらが糸にように柔らかな枝を飾っていて、風に揺れ、川沿いの道を花で包む。ここから上流を望むと、道の遥か先まで桜で埋まっていて、その桜の中を歩く。あまり髙くない土手をなだらかに降りると、鴨川がゆっくり流れている。流れの中の所々に低い堰があって、そこを落ちる水がおだやかなざわめきを響かせている。車の音をかき消すように、こころ持ちよく良く伝わる。目に紅しだれ桜、耳に鴨川のせせらぎ、歩きながらそれが続く。

 紅しだれ桜のトンネルを抜けて、植物園に沿って北山駅まで歩いた。植物園脇の歩道の垣根の緑が続く。内側は金網だが、歩く側に面した外側は生垣で柔らかさを演出している。道なりにしばらく歩くと、生垣が突然途切れ、飾り窓のように、そこに色彩豊かな今の季節の花の鉢が並べてある。どうぞ、園内に来てもっと見て下さいと言わんばかりの凝った演出である。京都はやはり他の所と、一味も二味も違う。多くの人に良き日本を感じてもらえるところだ。

(二〇一六・四・十四)

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