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「800字文学館」

知能競争の時代

野瀬 隆平

 人工知能で書いた小説が、ある文学賞の一次審査を通ったという。
 日経新聞主催の「星新一賞」で、応募作品1450編の中から選ばれたのである。
「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」というソフトを使って書かれた二作品の一つらしい。二つのどちらの作品かは公表されていないが、その一つ『私の仕事は』を見てみると、書き出しはこうだ。
 「私の仕事は工場のラインに入り、決められたルーチンをこなすこと。
  毎朝同じ時間に、同じ電車で仕事場に向かい、同じ作業をして……」
 当然のことながら、小説のテーマや、導入部の条件設定などは指示しなければならない。人工知能(AI)が書くというよりも、人間の指令でAIが作業をするといったほうが良かろう。
 AIといえば、こんなニュースもあった。Googleが開発した囲碁を打つ「アルファ碁」がプロの棋士に勝ったというもの。新たにディープラーニングという手法を導入し、AI同士に何回も勝負させて進化させた。人間ならば何年もかかる対局数をコンピュータで短時間にやらせて、飛躍的に能力を向上させたのである。
 もう一つ、面白かったのは、マイクロソフトが開発していたChatbot Tayがツイッターで暴言を吐いたので、これを削除し開発を一旦停止したという報道。
 その言葉とは、
  Bush did 9/11 and Hitler would have done a better job than the monkey we have now. Donald Trump is the only hope we’ve got.
 しかし、これは教えたユーザーが悪いのであって、ロボットの責任でないことは言うまでもない。

 近い将来、AIが進歩して人間の知能を越えると考える人もいる。シンギュラリティ、技術的特異点と称し、2045年に到来するという。本当にそのような時代が来るのか。残念ながら、というか幸いなことにその頃まで、自分は生きていないだろうが、少なくとも孫の世代が活躍するはずの時代である。
 AIを作り、指示を与えるのが人間である限り、AIが人智を超えるとは思えない。あくまでも賢くなるのは機械ではなく、そのような人工知能を作る人類なのだと思いたい。

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