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「800字文学館」

ドローン・マネー

野瀬 隆平

 もはや打つ手がないと言われている。
 デフレを解消して日本の経済を立て直そうと、政府や日銀はあの手この手と政策を実施するが、満足のゆく効果が表れない。マイナス金利という荒っぽい手段をとっても駄目である。金融・財政政策には、もはや打つ手がないのだろうか。
「異次元の金融緩和」といっても「金融」であることには変わりない。銀行はお金を貸してくれるのであって、お金をくれるのとは違う。お金に不自由している人は大勢いるが、返す当てもないのに借金ができないのは当然である。

 それでは、返す必要のないお金を配れば良いではないか。
 何年も前から主張してきたことであるが、「経済を知らない素人が何を寝ぼけたことを」、と一顧だにされない。
 しかし、こうした考えは米国の著名な経済学者、フリードマンも以前から唱えており、その政策はヘリコプター・(ドロップ)・マネーと呼ばれている。
 勿論この「劇薬」は、どんな時でも使えるわけではない。デフレの状況にあり、かつ供給が需要を大幅に上回っている今日の日本だからこそ可能で有効なのである。
 買いたい物がある人がいて、物が市場にあふれているのに、その人の手に渡らないのは何故か。理由は、単純明快。両者の橋渡し、運搬の役割を果たすお金が、肝心なところに行き渡っていないからである。
 貧困家庭など、本当にお金に困っている所に、ピンポイントで配れば良いのだ。ヘリーコプター・マネーと呼ばれた例に倣って、これを「ドローン・マネー」と名付けたい。

 反論として先ず指摘されるのは、財源である。国の借金をこれ以上増やせないというのなら、日銀が直接配れば良いのだ。有効期限付きの商品券という手もある。
 もう一つは、ハイパーインフレになる危険性。確かにその懸念はある。しかし、デフレからの脱却が喫緊の課題であるのなら、その先にある大幅なインフレを心配する前に、先ずはこの手を使うべきである。物価はお金の量の匙加減で調整できる。

(注)
英国金融サービス機構の元長官、アデア・ターナー氏が、最近このヘリコプター・マネーの導入を説いていることを知って、主張を繰り返すことにした。

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