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「800字文学館」

イタリアの街角で(六) サンタンブロージョ聖堂にて

藤原 道夫

 ミラノはイタリアを訪ねる際の玄関口ともいえる街で、しばしば訪ねた。ある時オペラの殿堂として名高い「スカラ座」を見学する機会があった。ここのシーズン幕開けの日は12月7日と決まっていることを知った。それがミラノの守護聖人聖アンブロジウスと関わっているという。
 ミラノ地下鉄2線のサンタンブロージョ駅から地上に出ると、忽然と教会が目に飛び込んでくる。美しい外観のサンタンブロージョ聖堂だ。ミラノに滞在中は、努めてここを訪ねる機会を作った。そしてこの聖堂に祀られているサンタンブロージョ(聖アンブロジュウス)に興味を抱くようになった。
 アンブロジウスは373年にミラノ周辺を統治する行政長官としてローマから派遣されてきた。時代はミラノ勅令の公布から60年後、キリスト教徒が増加し、教義を異にする三位一体派とアリウス派(注参照)との抗争が激化していた。有能な長官は政治力を発揮し、両社の対立を収拾する。そこに目を付けたのが三位一体派の幹部たち、アンブロジウスに司教に就くことを要請した。初め彼は拒否するものの、受託せざるを得なくなったようだ。アンブロジウスは先ず洗礼を受け、助祭から始まる諸段階の儀式を短期間に済ませ、374年12月7日に終に司教に就任した。この日がいつしかスカラ座の幕開けの日となったのだ。
 注:三位一体派は精霊・神・キリストが一体であるとする。アリウス派ではキリストは限りなく神に近いが、同格でないとする。
 司教は死後自ら建てた教会に葬られ、ミラノの守護聖人となった。教会は12世紀に現在の聖堂に整えられた。ロンバルディア・ロマネスク様式の最も美しい教会の一つとされている。内陣右手の奥まった礼拝堂の壁に聖人たちのモザイク画(5世紀)が残されている。最も大きな人物の頭上にAMBROJIVSと名が入っている。モザイク画を見ながら、ミラノの文化が脈々と伝えられていることを実感した。

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