伴大納言絵巻
出光美術館で国宝「伴大納言絵巻」を観た。絵巻には、大伴家が天孫降臨の昔から天皇のお側近くで警護役をしていたのに、藤原氏の台頭とともに徐々に権力を失って行った背景がある。何度かの政変があり、八六六年に〝応天門の変〟に至った。
絵巻はそれを題材に、三百年後の平安末期に制作された。物語は史実どおりではなく、語り継がれたものを面白おかしく脚色されている。
美術館では十年ぶりの公開とあって、三回に分けて展示されている。一回目の上巻は見逃してしまったが、解説されていた。
それによると、伴大納言(長年の権力闘争で力を失い、大伴の大の字は無くなっている)は、応天門に火をつけたのは、左大臣の源信(みなもとのまこと)だと清和天皇に讒言する(本当は当人が火付をして政敵に罪を着せようとしている)。それを信じて天皇は処罰を決定する。だが藤原良房の助言で処罰を撤回したところで上巻は終わる。
中巻の最初は、赦免の使者が、左大臣家の中門まで来た場面。源信は赦免されたとは知らず、逮捕されるのだと思いこんでいる。絵巻には反逆罪の濡れ衣を着せられた源信が、突然降りかかった災難に、天に向かって身も世もなく無実を訴える姿。そこには左大臣の威厳は全くなく、気弱にわなないているみっともない姿が描かれている。
木々でぼかした隣の場面は、屋根をめくって室内を俯瞰する形で描かれていて、中には、小袖に緋の袴、それに単衣をまとい、髪を長く引きずった、夏の平安装束の女房たちが、てっきり捕らえられるものと思い、のけぞり、大口を開け、身をくねらせ、恥も外聞もなく泣き崩れている。
源氏物語絵巻のような優雅さはないがリアルだ。建物や装束も丁寧に時代を映している。これに続く、伴大納言が火をつけている処を目撃した舎人の子供と、伴大納言に仕える出納の子供との喧嘩の場面。それによって真犯人がわかり、うわさは瞬く間に広がる。得意げに話す人、驚き、怒り、騒ぎ立てる大勢の人々が一人一人表情豊かに描かれ、喧騒が画面から伝わって来るようだった。