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「800字文学館」

Brexit(ブレキジット)

安藤 晃二

 Brexit(英国のEU離脱問題)が大詰めを迎えた先週、『「恐ろしさを超えた』事件が起きた。英下院議員で「残留派」のジョー・コックス氏が殺害された。コックス議員は名門ケンブリッジ大学で教育を受けた、将来を嘱望された労働党選出議員、二児の母でもある。昨年下院当選後の初演説では移民を擁護し、文化の多様性を訴えた。犯人メア容疑者は、治安判事の前で『裏切者に地獄を、英国に自由を』と叫んだ。米国のネオナチ団体に傾倒する。

 英国では、六月二十三日の国民投票により、EU離脱か、残留かの是非が問われる。「離脱派」の争点は、第一に移民問題、域内のポーランド等から、また中東から英国に移民が大量に流入、これが社会保障費を圧迫する、と労働者階級が反発する。また、EUの官僚的な規制が、自由な英国の伝統風土になじまない。官僚組織維持のための莫大な拠出金をも問題視する。彼等は「小さな英国」を望むのだ。
 これに対峙する「残留派」はキャメロン内閣はじめ、産業界のエリート層や若者達が構成する。五億人の単一市場からの計り知れないメリットを強調する。EUによる環境保護規格等は、重要な規制であり、それ故に単一市場が機能する。国民投票は、保守党内にも根強いユーロ懐疑派をも意識する。キャメロン首相はその決断に際し、EU首脳より「英国のEU内での特別な地位」(移民急増下で福祉サービス制限、主権を脅かす「一層緊密化する連合」より英国を除外等)をEU側の譲歩として引き出し、政権の命運を賭けた。

 Brexitは正に英国のみの問題に響くが、実はこの展開はEU全体の視点で考察すべきである。経済大国英国の重要性ばかりか、EU創成の精神が目指すゴールの重要性を忘れてはならない、過去の大戦の惨禍に学んだ英知がそこにある。一方、債務国問題、難民問題等も絡み、EU諸国内に右傾化したユーロ懐疑派が台頭する。世界史の流れを揺るがす動きであるだけに目が離せない。

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