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「800字文学館」

イギリスよ、どこへ行く

首藤 静夫

 イギリスの国民投票を世界中が固唾をのんで見守っている。EUを出るのか留まるのか。
 2年前はスコットランドの独立問題が世間の注目を集めたばかりだ。英王室の慶賀ムードとはうらはらに、最近のイギリスは分離だ、脱退だと内向き、後ろ向きの話が多い。
 報道では、政党の枠をこえて、年代層、貧富の差など属人的要素の強い選挙だという。争点は多額のEU分担金、EU域内からの安い労働力の移入、中近東からの難民の流入など高度の政治問題である。しかし国民には、失業、治安、独仏主導のEU体制など、生活の切実な問題あるいはグレートブリテンとしての感情論がある。人それぞれに違った不満がうっ積し、一気に噴き出しているようだ。
 脱退となったら世界金融への影響が懸念されるし、EU残留派の多いスコットランドが再度独立の動きをみせるだろう。国内も分裂気味のイギリスの今後が気になる。

 イギリスは20世紀以降徐々に沈んでいる。2度にわたる大戦の損害も大きいが、植民地の独立で世界に冠たる通商交易網が崩壊したのが効いている。この段階で新しい国づくりを模索すべきだった。過去の栄光を捨て、日本やドイツのようにゼロから再出発すべきだった。しかし、アングロサクソンは額に汗する地道な仕事は苦手と見える。
 サッチャー首相の規制緩和策が両刃の剣になった。ロンドン金融市場に巨額の外資を呼び込んだのと引きかえに国内産業が打撃をこうむった。ウィンブルドン効果と評されるように、外国企業に場所だけ提供して自国産業の上を素通りさせている。一般国民に活力が生まれるはずがない。
 島国が生き延びるには、世界に間口を広げておくこと、息の長い国内産業を粘り強く育成することに尽きると思う。それが耳に入らないほどイギリス人は心理的に追い込まれているのか。
 独仏がEUのかじ取りと難民問題で苦労しているときに逃げるのかい。中東紛争を引き起こしたのはどこの国か忘れた訳ではあるまいね。

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