国の観光政策に物申す
「★☆●△!?」と店員に話しかけられた。新宿西口の大型電気店でショーケースを覗いていた時である。眉を顰めると、慌てて奥へ日本人を呼びに入った。
今や主な繁華街や観光地にかぎらず全国至る所で、近隣諸国からの外国人観光客が闊歩している。昨年度は2年前の想定より200万人も増えて1400万人が日本を訪れたという。
円安と地理的近さに加え日本の美しい風土や歴史遺産、清潔で安全な街並みが経済的余裕を持ち始めた庶民層に人気を呼んでいるようだ。ぎくしゃくとした関係しか築けない外交政策より庶民レベルで相手国を見聞し合う方がよほど国際平和に役立ち、好ましく思える。
アベノミクスの経済成長戦略の多くが先を見通せない中で、唯一好調な観光事業にかける政府や関係業界の期待は大きい。東京オリンピックが開かれる4年後には2000万人規模とし、その後も3000万人を目指すという。閣議での「観光立国アクション・プログラム2015」には地方創生、基幹産業化へ向けての利点と方策が華々しく謳い上げられている。
その方向性は良いとしても計画の訪日人数を調子に乗って急増させているのは浅慮である。先の軽井沢スキー観光バスの惨事では運転手の恒常的な人手不足が根本原因となった。現場を担うこのような人達の全国的な欠如、不法外国人増加による治安悪化、ブーム後のホテルや輸送機関の余剰問題など、懸念材料やリスク対策については殆ど触れていない。
観光政策は当面の経済効果などに惑わされずに百年の計として進めるべきだ。現場の実態をよく見極めながら、日本の魅力を長く維持していくことが大切である。観光都市の京都では応仁の乱以前から続いてきた店でないと老舗と自慢できないそうだ。
彼らは売行き好調の時もむやみに支店や従業員を増やさず、商品の質の向上と維持に努めてきた。これからの我国の取るべき道は観光事業も含め、この老舗商法である。質が良ければ、少々高値でも一定数の客は常に来てくれる。