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「800字文学館」

そばを打つ

大月 和彦

 信州戸隠の宿坊と縁があって、20数年前から見よう見まねでそば打ちを始め、時々そば打ちを楽しんでいる。

 そば粉は、休耕田でそばを栽培するようになったので、各地の農産物直売所で容易に手に入るようになった。
 道具は一通り揃えた。捏ね鉢は信州秋山郷で手に入れたトチの木をくり抜いた径50㎝の鉢、大阪の堺で求めた刃渡り25㎝の包丁など。

 つなぎは小麦粉で、そば粉8に対し2の割合が手ごろだ。打ち易いし味もまあまあ。

 そば打ちで難しいのは水加減と捏ねの作業だ。
 加える水は粉の40~45%が目途とされるが、粉の質やその時の湿度などによって変わるので結局はカンに頼ることになる。
 そば粉は水との結合力が強く、いったん水と混ざると固まってしまい、後で水や粉を加えても融け合わない。一発勝負だ。
 水を粉全体に行きわたらせるように加え、両手で擦り合わせるようにして均一に付着させて粒状にする。これがポイント。水が多すぎると歯ごたえのないそばになるし、少ないと固すぎてボロボロになる。この「水まわし」は満足にできたことはない。

 粒状になった粉を捏ね合わせる。腕と掌を使う力仕事だ。粘りと艶が出てきたら塊に仕立てる。捏ねているうちにほんのりとした青臭い香りが立ち上って来る。そばの香りを味わえる一瞬だ。

 捏ね上った生地は麺棒で厚さ1㎝ぐらいまでに延ばす。さらに生地を麺棒に巻きつけて力をいれて叩きつけるように転がし1.5㎜ぐらいにする。

 生地を切るのも熟練を要する。折りたたんでトントンと叩くように切るには年期が要る。重い包丁で抑えつけるようにゆっくりと切るが、太さはばらばらになってしまう。

 わが家で最も容量の大きい容器(蒸し器)に水をたっぷり入れ、煮えたぎってきたらばらばらと落とす。泳がせること1分ぐらい、吹き出しそうになったら一挙に冷水に晒す。ていねいに洗ってざるに盛りつける。

 そばつゆは市販のもので間に合わせている。
 見た目はよくないが、打ちたてで茹でたてなので光沢があり、歯触りがいいそばが出来上がる。

(16・6・20)

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