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「800字文学館」

長寿企画省

稲宮 健一

 喜寿を超えると同級生の訃報が続く。不肖筆者は幸か、不幸か今のところ元気だ。個人的な感覚は別にして、平均寿命は年々伸びているのは喜ばしい。現下、世間の耳目は経済成長に集まっている。デフレが収まり、円安傾向が続けば回復するし、千兆円の借金だって、成長で黒字基調なら減るとかしましい。

 さて、成長を回復し維持できるか今は不明だが、そのため、一生懸命お金をばらまき刺激策を執ったり、インフラ投資のための安倍さんのトップ・セールスの姿が報道されている。

 別な観点で考えよう。人が生き、衣食住を満たすための生活インフラも大規模な需要である。今の関心は生産世代の生産性の向上や、賃金の向上を通じて、この世代のエンジンが高齢社会を支える源泉と思われている。しかし、高齢社会は年金、健康保険を消耗するだけの世代ではない。長寿を生きるための健康の保持、加齢の疾病の治療、介護の補助、終末医療などは人が生きるための莫大な案件を世に問うている。これらを限られて予算の中で、高齢世代に満足が得られる政策の確立は一大プロジェクトである。

 このプロジェクトを指揮し、やがて、この実績を遺産として他国までお使いいただける守備範囲を持つ長寿企画省の創設を提案する。高齢者の需要を案件ごと狭い範囲で処置、収束させてならない。例えば、がんの初期に有効な重粒子治療は最先端の原子力工学の研究を活用した成果だ。小柴先生の研究の親戚である。内視鏡の技術は不正会計で潰れそうになったオリンパスを救った。腹腔鏡手術のダビンチは全米の最高の知能を集積させ生まれた。介護だって、ロボットや、高齢な健常者側の運転支援など、スマートな取り組みと、人材を含めた最適化された仕組みにより先端の高齢生活規範ができる。
 多方面の要素を包含した、長寿学博士が多数誕生することを期待したい。日本が団塊世代で格闘し取り組んだこの実績は、少し遅れて後続の近隣諸国に歓迎されるだろう。

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