シロヴィキ(силовики)
日本のジャーナリズムでは聞きなれない見慣れない言葉である。しかし、ソ連・ロシアの政治体制を理解するには欠かせない言葉だ。日本語では「武闘派」「武力派」と訳されることが多い。強硬派=タカ派ではない。タカ派を意味する(ястребы)という言葉があるからだ。ソ連崩壊後に登場した用語であるために概念や用法が十分確立されていないため混乱を招いている。
基本的にはシロヴィキと呼ばれる派閥は彼らの政治的姿勢という以上に政治的出身母体を指す表現であると考える。1991年エリツィン大統領が選出され、軍や内務省など武力省庁への依存を強める結果となった。この時「シロヴィキ」という言葉が生まれた。エリツィンは政権終了後も自身の安泰を図るためソ連国家保安委員会(KGB)出身のプーチンを後継者に選んだ。そしてプーチン政権が誕生することによりシロヴィキが強化されて、ロシア政治に占める影響力は巨大なものとなった。かれの政策に批判的なジャーナリストのポリトコフスカヤが暗殺され、これを究明しようとしたリトビネンコも毒殺された。
シロヴィキの中核はプーチン自身が、長官としてかつて勤めたKGBの後身であるロシア連邦保安庁である。この組織は特殊部隊と国境警備隊を傘下に置く。これに内務省と国防省など武力省庁が加わり権力支配の構図は完成する。
シロヴィキの一員としてもう一人重要な人物がいる。セルゲイ・イワノフ。プーチンの部下で、小泉政権の時、鈴木宗男が早くから接触をした政治家である。外交官としてロンドンに駐在した時スパイ容疑で追放された。情報収集能力は抜群であり、日本政府としても最も注目をしている。
シロヴィキの勢力範囲は政界に留まらない。シロヴィキの経営する企業には石油界を牛耳るロスネフチ、ガス企業のガスプロムである。国家の基幹産業はシロヴィキが握っている。
昨年2月、ネムツォフ元ロシア第一副首相が暗殺された。プーチンは捜査を命じたがシロヴィキがやったことに間違いない。